無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

新しい世界。

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2009「ワールド ワールド ワールド」
■2009/01/11@札幌市民ホール
 会場の札幌市民ホールは、老朽化のため2007年に閉館した札幌市民会館の代替施設として昨年末にオープンしたばかりの新しいホール。中に入るのはこの日が初めて。外観はライブハウスのような雰囲気がある(どことなく赤坂ブリッツっぽい)。中に入ってみると、壁は黒系で、ホール内も黒壁黒床。こちらもライブハウスっぽい。というかZeppっぽい。まだ新築の匂いがする。将来的にはまた別のホールを建てる予定らしいので、緊急で作ったホールみたいな位置づけなんだろうか。なんとなく安っぽい気が・・・。キャパは1,500席で、以前の市民会館とほぼ同じ。
 そして、アジカンにとっては初めてのホールツアー。あまり意識したことはなかったが、確かにスタンディング以外でアジカンを見たことはない。客入れに時間がかかっていたのだけど、リハが押してたりしたのだろうか?定刻を30分近く過ぎたところで客電が落ち、逆光のステージ上に一人ずつメンバーが登場する。何かの端末?らしきものを操作し、電子音のリズムが流れてくる。最後にゴッチが所定の位置につき、楽器をスタンバイしたところで「ノーネーム」からスタート。意外な曲で始まった。序盤はガンガン盛り上がるという感じではなく、静かにスタートした。敢えて過度な興奮を抑えるように曲も選ばれていたのじゃないだろうか。「Re:Re:」からその雰囲気も変わり始め、「アンダースタンド」では会場全体でのコーラスも映える。ようやく温まってきたかな、というところで再び「夜の向こう」で穏やかにいったんブレイクとなった。
 ここからはアコースティックセット。昨年のツアーで予告した通りである。アコースティックで何をやるのかと思ったら、ここで「君という花」。驚きと歓声。だが、ということは通常のアレンジでは今日はやらないということだ。それはそれでまた複雑。ゴッチと建介の2人がステージ上で演奏していたが、そこに潔がタンバリンで登場。せっかくゴッチが熱唱しているのに歩き回って笑いを取る潔。上手からはけたと思ったら下手からまた登場したり。会場は盛り上がってたけど、これはちょっとどうかな。アコースティックで聞ける機会なんてそうあるわけじゃないのだからまじめに聞かせてほしかったな。続いては4人で演奏。正直言うと、ゴッチのアコースティックギターはそれほど上手いわけではない。アレンジもギターのコードやフレーズを基本的にそのままアコースティックでやるもので、アコースティックならではの凝った部分というのはあまり見られなかった。かなり緊張している感じも伝わってきた。いつもと違う雰囲気で楽しめるものではあったけど、もうひとひねりあっても良かったんじゃないかと思う。途中、「真夜中と真昼の夢」からは弦楽四重奏が加わってゴージャスなアレンジに。「海岸通り」なんかはかなり聞き映えした。カルテットとエレクトリックセットに移行して「夕暮れの紅」、「永遠に」と続き、「タイトロープ」で前半終了。このパートは若干長かったかな、とも思った。大声で叫ぶだけがロックンロールじゃないんだと言いたかったのかもしれないが、観客が求めているのはやはりバンドでガツンと音を出し、高音に顔を歪めながらシャウトするゴッチの姿なのだ。こういう雰囲気はあまり見られないし、いろいろとやってみたかったのだろうとも思うのだけれども、今回のセットの中ではやや冗長だったと思う。曲も地味だったし。逆に言えば、長いと思わせないほどのレベルには達していなかった。
 メンバーがステージを去った後、「ここで、10分間の休憩です」とアナウンス。一緒に行った知り合いは「こんなのアリ?」みたいに驚いていたけれど、僕もロックのコンサートではそんなにお目にはかかったことはない。お年を召したベテランバンドのコンサートや、3時間を越えるような長丁場では中盤休憩を挟んだりすることはある。あとは前半と後半で全くコンセプトや趣向を変えて、セット自体大きく組み替えるために休憩時間をはさむということもある(2004年・佐野元春の『THE SUN』ツアーなど)。今回のアジカンは後者だった。休憩時間の終わりに、再びアナウンス。「まもなく、3番ホームから藤沢発鎌倉行きが発車いたします。ホールの外にいるお客様は、席にお戻りください。」みたいな。なかなか上手い演出だ。ステージには中心に大きな鳥居と、ビルなどの街並みが建っている。右側には電車。デビュー以来アジカンのCDジャケットを手がけている中村佑介氏によるイラストがステージ上にバカでかいサイズで具現化されている。お察しの通り、ここからは『サーフ ブンガク カマクラ』を曲順通りに演奏するコーナー。右側の電車には曲名に冠されている駅名が表示されるという丁寧な趣向。作品自体もアジカンの素のロックンロールが剥き出しになったような爽快なアルバムだったが、3分前後の短い曲を矢継ぎ早に繰り出す早い展開で一気に引き込んでいく。「江ノ島エスカー」ではセットがちょっと変わってバックに海が見えてくる。凝ってる。ここに来て、やっと会場全体が盛り上がり始めた。最後は再び弦楽カルテットを交えた「鎌倉グッドバイ」で第2部終了。アンコールは「ループ&ループ」から「遥か彼方」「羅針盤」と懐かしの代表曲を続け、「ワールド ワールド ワールド」から「新しい世界」で終了。最後は、やっぱりこの曲でなければいけなかったんだろう。目の前が一気に塗り替わる興奮と覚醒感を搾り出すようなラストで、会場を埋め尽くすほどの紙吹雪が発射された。
 MCでもゴッチが言ってたが、ホールツアーなんか次またいつ出来るかわからないからやりたいことを全部詰め込んだ、らしい。アコースティックセットにしてもカルテットとの競演にしても、後半の凝ったステージセットにしても、とにかくアイディアを一つ一つ実現していったのだと思う。アジカンらしい愚直さだと思うし、そうやって自分たちの手で理想を現実にしていくのはNANO-MUGENフェスなどですでに彼らが実証してきたことでもある。ただ、前述のようにトータルで見れば若干整理しきれていない部分もあったと思う。個人的には、昨年後半の「酔杯〜THE FINAL〜」ツアーと対を成して今のアジカン総決算という感じがした。どちらも、ある意味極端な内容だったので足して2で割ればちょうど良かったかも。しかし後半の演出と追い上げは素晴らしかったし、彼らが2008年リリースした3作品の中でも最も重要なテーマがラストにはっきりと昇華されていたと思う。このホールツアーは『ワールド ワールド ワールド』から続くアジカンの集大成であり、同時に新しいチャレンジでもあるのだろう。ここでの経験や課題からヒントを得て、次の歩みを進めていくに違いない。MCでメンバーをいじり、冗談を言い続けるゴッチの表情は非常にすっきりしていた。また、新しい世界が目の前に開けて行くのだと思う。

■SET LIST
1.ノーネーム
2.ムスタング
3.ネオテニー
4.ナイトダイビング
5.無限グライダー
6.深呼吸
7.Re:Re:
8.アンダースタンド
9.夜の向こう
10.君という花
11.ワールド ワールド
12.真夜中と真昼の夢
13.海岸通り
14.夕暮れの紅
15.永遠に
16.タイトロープ
〜休憩〜
17.藤沢ルーザー
18.鵠沼サーフ
19.江ノ島エスカー
20.腰越クライベイビー
21.七里ヶ浜スカイウォーク
22.稲村ヶ崎ジェーン
23.極楽寺ハートブレーク
24.長谷サンズ
25.由比ヶ浜カイト
26.鎌倉グッドバイ
<アンコール>
27.ループ&ループ
28.遥か彼方
29.羅針盤
30.ワールド ワールド ワールド
31.新しい世界