無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

バンドの品格。

ザ・スクリプト(2ヶ月限定スペシャル・プライス)

ザ・スクリプト(2ヶ月限定スペシャル・プライス)

 アイルランド出身のスリーピース、ザ・スクリプトのデビュー作。メロディーセンスが高レベルで、音楽IQはかなり高い。新人とは言え、様々なアーティストとのセッションや裏方で長いキャリアを持つメンバーたちだけにフレッシュさよりも熟練度が勝っている気がする。ソウル、R&B、ヒップホップを絶妙にブレンドした高性能アーバン・ポップ。わかりやすく言うとマルーン5をちょっと貧乏臭くしたような感じだろうか。
 そう、完成度もチャート・アクションも評判もデビュー作とは思えないほど文句なしなのだが、あまりハイプ臭はしない。それは彼らの曲が庶民的であり、人間臭いからだと思う。彼らの曲に出てくるのは人生に疲れ、何もかもが上手くいかず嘆いている人間ばかりだ。ザ・スクリプトはそうしたテーマに対して「一緒に泣こう」と歌う。長年下積みを経てきたというキャリアもあるのだろうが、社会の底辺でもがく市井の人々に対する彼らの視点は優しい。「ザ・マン・フー・キャント・ビー・ムーヴド」なんかは泣きのバラードなのだけど、よく見るとフラれた女につきまとうストーカー一歩手前の曲だ。にもかかわらず、ザ・スクリプトが歌うと人間愛に満ちた崇高な曲に聞こえてくる。これも人徳というものだろう。
 ロックというには洗練されすぎているし、ポップスとして消費するには音楽的密度が濃すぎる。いずれにしろ、若いバンドの潮流とは全く無関係なところで鳴っている音であることは間違いない。数年前にラウル・ミドンの音楽に触れたときのような、時代とは無関係に素晴らしい音楽との出会いを予感させる。