無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

寝かせすぎたワインのような。

CHINESE DEMOCRACY

CHINESE DEMOCRACY

 このアルバムの存在自体をハローバイバイ関暁夫が都市伝説として語り出すのではないかと思うほどだったが、本当に出てしまったガンズ・アンド・ローゼズ17年ぶりのオリジナル・アルバム。17年ぶりとか制作費14億円とかそういう話ばかりがどうしても先行してしまうので仕方が無いのではあるが、正当に音だけで内容を判断するのは難しい部分がある。正直現在のシーンにおいては立ち位置のはっきりしない作品になってしまっているし、そこをどう捉えるかで評価が分かれてしまうアルバムだと思う。ご存知の通りアクセル・ローズ以外オリジナルメンバーは皆無で、しかも新メンバーとして活動していたバケットヘッドなども今はすでに脱退している。新旧メンバー合わせてレコーディングに参加したミュージシャンの数はかなり多く、クレジット見ているだけで頭がクラクラして来そうだ。
 バンドにおけるアクセルの俺様度が頂点に達しているだけに、サウンドもアクセルの志向をそのまま現していると言っていいだろう。ブルース色は薄れ、インダストリアルな打ち込みを多用したミクスチャー・ヘヴィー・ロックという印象のサウンドになっている。『チャイニーズ・デモクラシー』という新作のタイトルがメディアに流れ始めたのは僕の記憶だと2000年前後くらいのことだったと思うのだが、当時発表されていればミクスチャー・ロックのレベルを一段階引き上げるようなセンセーショナルなアルバムとして迎えられたんじゃないだろうかと思う。
 全体の完成度は非常に高く、アクセルが偏執狂的にこだわったのは聞いていてもよくわかるのだけど、いかんせん方法論自体がここ数年の間で古びたものになってしまったのは否めない。それでも世間で言われているほど酷いアルバムではないし、むしろこういうのが好きだという人も多いと思うのだけど、「あのガンズの」「17年ぶりの」「14億使った」アルバムとして、ハードル上げた状態で聞くとこんなものかと思ってしまうのも事実。これなら数年前に出せなかったのだろうかと思えてくる。個人的には「アペタイト・フォー・ディストラクション」も「ユーズ・ユア・イリュージョン」もリアルタイムでお世話になった世代なので、このアルバムに対してフラットに向き合うのは非常に難しい。
 ただ、おそらくはアクセル自身もこのサウンドがシーンの空気を一変させるような衝撃的なものでは既に無いということはわかっていると思う(もしかしたらわかっていないかもしれないが、それはそれで)。それでも彼はこれをガンズの新作として自信を持って発表したのだろうし、彼自身のボーカルもベタベタなバラードのメロディーラインも、「これがオレ様だ」という確信に満ちた音として鳴っているのだ。その頑固さやブレ無さがアクセル・ローズなのであり、アクセル・ローズこそが(今の)ガンズ・アンド・ローゼズなのだとはっきり示した点で意義のある作品だろう。何よりもこれから先「ガンズの新作は本当に出るのか?」というニュースに振り回される必要が無くなっただけでも非常に大きな意味があるだろう。また十何年も待たされるとなると話は別だが、ここからコンスタントにガンズの活動が軌道に乗りアルバムが発表されていけば本作の評価もまた変わってくるのかもしれない、と思う。