無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

自覚的なビート。

Tonight: Franz Ferdinand (Sba2)

Tonight: Franz Ferdinand (Sba2)

 フランツ・フェルディナンド約3年半ぶりの3作目。1作目と2作目の間隔が約1年と短かった分、今回のインターバルは非常に長く感じた。しかも、その間にUKロックシーンは大きく様変わりし、「踊れるロック」の主流はフランツに代表されるニュー・ウェイブ・リバイバルからいわゆるニュー・レイヴに移った。(そしてそのニュー・レイヴすらすでに過去のものになろうとしている。)
 非常にハイテンションで全編これ躁状態といってもいいくらいだった前作までと比べ、今度のフランツは落ち着いている。曲のテンポは若干落ちているし、打ち込みやシンセを使用したサウンドも重心の低いものになって、ダビーな印象だ。1曲目の「Ulysses」からそのニューモードのフランツを強く印象づけられる。1曲の間に何度も転調しテンポも変わるようなことも多かったが、今作の曲はほとんどそれとは間逆のアプローチになっている。トライバルなビートが強烈なサイケデリックトラック「Lucid Dreams」をはじめ、これまで以上にフロアに密接なサウンド作りが志向されているように思う。
 タイトルやジャケットからしても、ダークなイメージのサウンドからしても夜をイメージさせるアルバム。それでいて今までの陽性なポップなフランツを捨てたわけではなく、自然な変化の結果として見えるところがいい。厳しい時期もあったのかもしれないが、それを乗り越えたバンドのタフさを感じる。と同時に、長いブランクの後自分たちが今のシーンで鳴らすべき音というものに非常に自覚的だったのだと思う。どちらかというと天然のままトップに立った感じのあるフランツが一皮剥けたように思えるのはそのためかもしれない。