無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

破格の歌。

RAINBOW

RAINBOW

 福原美穂は中学生の時、北海道ローカル情報番組のいちコーナーに素人として参加した。街角でカラオケをワンコーラス歌うというだけのものだったが、これがきっかけで北海道のインディーレーベルからデビュー。そして当時のPVを監督したのはあの「水曜どうでしょう」のディレクターだったりする。そんな感じで地元ではちょっと注目されていた彼女の本格的なメジャーデビューアルバム。
 基本的にはR&B・ソウルに根ざしたポップミュージック。こういう音楽を日本人がやる場合どうしても本場アメリカの模倣になってしまう。しかも、そもそも絶対に追いつけないものであるからして、モノによってはイタい部類にすらなってしまう。そこを勘違いしないでいかに日本人好みのポップスに消化できるかということが重要になってくる。福原美穂は基本的に耳が非常にいいのだと思う。前述のテレビ出演の時も、英語の発音はほぼ完璧だったが、彼女はバイリンガルではない。耳で聞いて本物が歌っている発音をコピーしたのだと思う。これは、歌を歌うものにとっては重要な能力である。そして、彼女の声が日本人離れしたものであることは多くの人が認めるところだろう。本場アメリカの教会で歌い、現地の人々を涙させた映像を見た人も多いと思う。しかし、こうした事実から彼女を本場のシンガーと肩を並べる才能だと思うのは早計だと思う。あくまでも彼女は日本で、日本語の曲を歌って日本人に届けるシンガーなのだから(少なくとも今のところは)、そのための音作りをするべきなのだ。本作はそういう意味ではいいバランスになっていると思う。ブラック色の強い曲もあるが、実は耳を引くのは「ひまわり」「雪の光」などのオーソドックスなポップスだったりする。簡単に言えば、普通の曲を彼女が歌うことで、彼女のシンガーとしての破格の能力がより顕著に見えてくるのだ。とにかくその声と表現力で一気に聞かせてしまう。サンディ・トムなど海外のアーティストが曲提供をしているというトピックもあるが、アルバムトータルとしてはそれが特に大きな意味を持つものではないと思う。
 歌詞はほとんど彼女自身が書いているが、背伸びせずに21歳の女の子の素直な視点があるのも好感が持てる。その中で、大きなテーマとなるのは地元を離れて夢を追いかけている自分と、その地元に残してきた人々への想いだ。同郷の人間として、共感できる部分は多い。そういう想いはこれからも持ち続けてほしいと思う。たくさんの人の想いに祝福されているような、とてもハッピーな色合いを持つアルバムになっていると思う。歌を歌いたくて歌手を目指す人は多いが、音楽に勝手に選ばれてしまうような歌い手はそうはいない。彼女はそういうレベルのシンガーだと思う。

以下余談。その、デビューのきっかけとなったテレビ番組の動画がこれなのだけど、こんな中学生が夕方のローカル番組に出てきたらそりゃあ度肝抜かれるよね。