無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

凱旋のサカナ。

サカナクション SAKANAQUARIUM 2009 “シンシロ”
■2009/03/20・21@札幌ペニーレーン24
 サカナクションのツアーファイナルはペニーレーン堂々の2Days。当然のごとく両日ソールドアウト。昨年夏のライジングサンも「地元凱旋」という印象のステージだったが、自信作を出した後でのワンマン・フルサイズライヴでツアーファイナルという今回はそれ以上に輝かしく故郷に錦を飾るようなものだったと思う。MCでも言っていたが、札幌のアマチュアバンドにとってペニーレーンというのは目標であって、登竜門的な意味合いを持つライヴハウスである。山口一郎の言葉の端々からも、満員のペニーレーンでツアーファイナルを迎えられたことに対する満足感・達成感のようなものが見え隠れしていた。会場に入ると、ステージのバックドロップには「SAKANAQUARIUM」のロゴとイラスト。そしてSEにはボコボコと水の音が。水族館のの魚になったような心持で開演を待つ。
 「Ame(B)」のコーラスをSEとしてメンバーが登場。そのまま演奏がスタートし、「ヒダリカタニシタタルアメ!」のブレイクから一気にペニーレーンはダンスフロアへと変貌する。そのまま「ライトダンス」、「インナーワールド」へと続く。1年前よりも各個人の演奏がよりタイトになったように感じる。特にリズム隊。元々サカナクションのグルーヴの根幹は草刈のベースによるところが大きかったと思うのだけど、今はそれに負けないくらい、江島のドラムも良くなっていた。「サンプル」はアンセムとしての輝きを更に増している。「minnnanouta」は各メンバーのソロプレイをフィーチャーし、音源とは全く違う印象の曲になっていた。前回のツアーでは全体のクライマックスとして置かれていた「ナイトフィッシングイズグッド」は、今回は前半のピーク。ここまでが大きく第1部と言っていい構成。アルバム3作を重ねたことで持ち曲も増え、ライブの構成もより奥行きのあるものになったと思う。(前回のツアーはワンマンだとアルバム2枚分の曲全部やってちょうどくらいだった。)
 「黄色い車」からは若干トーンが落ちついてくる。ここから「夜の東側」までがざっくり第2部か。「あめふら」では山口が指揮者となり、後半のサイケデリックな音像を自由自在に操り出す。メンバーに音の押し引きを指示し、ドラッギーな空間を作り出していた。草刈姉さんは縦弾きベースを弓で弾いていた。草刈姉さんのベースは今までより大きなグルーヴを生み、そしてよりセクシーになっていた(女性でこんなベース弾けるの、LOSALIOSのTOKIEさんくらいじゃないだろうか)。そして、『シンシロ』中最も重く、最も飾らない言葉で書かれた曲「enough」がこの中間部のピークだった。セット全体を通しても核となるような演奏だったと思う。搾り出すように歌われる言葉は、CDで聴くよりも更に生々しく響く。曲の中間部のダンスパートは重苦しい心情吐露と裏表の関係にある。曲の最後、山口が歌い終わり、岡崎のキーボードが消えても客は微動だにせず、拍手も起こらない。ブラックホールに吸い込まれたような静寂の後、「涙ディライト」のイントロが聞こえてくると一気に目の前が開けたような感覚に陥る。この2曲はアルバムの通り、この順番に置かれなければならなかったのだろう。「enough」は思い入れが強すぎて、歌っていて感極まってしまうし、あまりにも個人的な曲なので最後までライブでやるかどうか迷っていたのだそうだ。結局、曲自体もライブで演奏することによって成長して行くし、やることにしたのだが、このツアー後はもうやらないと言っていた。山口一郎というソングライターにとってはそのくらい重く重要な曲だということなのだろう。生で聞けたこのツアーは貴重な体験になるかもしれない。
 第3部は掛け値なしに盛り上がる、クライマックスパート。「ネイティブダンサー」から「セントレイ」はレーザー光線が入り乱れるディスコ空間と化していた。20日の「アドベンチャー」で歌詞を忘れたのはご愛嬌。本編ラストは「human」。満員の地元のファンを前に、感謝の気持ちを表したように聞こえた。サカナクションアンダーグラウンドなダンスミュージックと、いわゆるJ-POP的なポップミュージックを繋ぐ架け橋のようなバンドを目指している。プラス、その底にあるのは山口一郎という人の持つ内省と哲学と文学性である。ダンスに文学を持ち込むことは水と油のようなもので、ある意味非常に危険な組み合わせだと思う。しかし、今のサカナクションは奇跡的なバランスでダンスミュージックとして、そしてポップミュージックとして、文学性を失わずマスにアピールしうる音楽を作り出している。バンドとして非常にいい状態なのだと思う。山口だけではこういうバランスにはきっとならないのだ。他のメンバーがそれを支えている。本当にいいバンドだと思う。
 鮭が成長して故郷の川に戻るように、サカナクションは大きくなってこのペニーレーンに戻ってきた。アンコールで演奏したのは彼らがデビューするきっかけになった「三日月サンセット」と「アムスフィッシュ」。最終日には2度目のアンコールとしてファーストアルバムからタイトル曲を演奏した。初心忘るべからず。そんな彼らの心意気を感じた。東京で彼らはもっともっと大きくなるだろう。山口も言っていたが、出世魚のようにどんどんその姿を変えていくと思う。(でも「次はZepp」という客の声にビビッていたのもなんとも彼ららしい。可能性十分あると思うけど。)山口と岩寺が2人でバンドを始めた時の話など、バンドのここまでのヒストリーを総括するようなMCが多かったのも印象的だ。彼ら自身にとっても東京で『シンシロ』を作り上げ、地元で満員の2日間というツアーラストに感じるものがいろいろとあったのだろうと思う。充実した今と、輝かしい未来。こんなバンドが札幌という町から生まれたことを改めて誇りに思う。

■SET LIST
1.Ame(B)
2.ライトダンス
3.インナーワールド
4.サンプル
5.minnanouta
6.ナイトフィッシングイズグッド
7.黄色い車
8.白波トップウォーター
9.あめふら
10.enough
11.涙ディライト
12.フクロウ
13.夜の東側
14.ネイティブダンサー
15.セントレイ
16.アドベンチャー
17.human
<アンコール>
18.三日月サンセット
19.アムスフィッシュ
<アンコール2>
20.Go To The Future(3/21のみ)