無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

オリジナル・レイヴの逆襲。

Invaders Must Die

Invaders Must Die

 プロディジー、4年半ぶりの新作。そして、大復活作と言っていいと思う。前作『オルウェイズ・アウトナンバード、ネヴァー・アウトガンド』はキース・フリントとマキシムがレコーディングに参加しておらず、リアム・ハウレット一人で作られたものだった。そのためリアムという人のDJ的な側面が強く出たアルバムだったし、ゲスト陣も豪華でそれはそれで興味深く、また肥大しすぎたプロディジーというユニットをクールダウンさせる意味でもこういうアルバムもアリかと思っていた。しかし、当時はメンバー間のコミュニケーションがほとんど無く、解散寸前だったというのも事実だったようだ。結果的にメンバー間の誤解は解け、こうしてまた3人でアルバムを作ったわけだが、タイトルの「Invaders」というのは当時メンバー間の仲を引き裂くような振る舞いをした悪質な取り巻き連中のことを指しているらしい。
 そういう連中から解き放たれた解放感と、連中に対する怒りと、最高のサウンドの新作を作ったという喜びがアルバム全体からだだ漏れている。『ファット・オブ・ザ・ランド』を頂点と考える人間が聞いて素直にそれに匹敵するものと思える強靭なビートとアグレッシブなサウンドが満ちている。サウンドにはどこか彼らの出自であるレイヴの匂いがする音色やビートが感じられ、図らずも彼らが不在の間に勃興した「ニュー・レイヴ」というムーブメント(もうすでに下火だが)へのオリジネイターからの回答とも聞くことができると思う。そしてリアムが1人で作った前作と3人で作った本作で最も違うのは周囲への攻撃性、平たく言えばパンキッシュであるかどうかだ。プロディジーというのは優れたミュージシャンによるソロプロジェクトで成り立つようなものではなく、あくまでもロックバンドなのである。メンバーが揃わなければその力を十分に発揮できないし、3人が揃うことで初めて世界と戦う体制が整うのである。
 前作のタイトルを直訳すると「いつでも数では負けているが、火力では負けない」ということになる。メンバーがバラバラでリアムが一人で作ったアルバムでも、何者にも屈しないメンタリティだけはプロディジーの核として持ち続けていたわけだ。こうしてバンドとして復活した今だからこそ、前作のタイトルも意味深く感じられるような気がする。