無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

陽はまたのぼりくりかえす。

エレファントカシマシ コンサートツアー2009“昇れる太陽”
■2009/05/17@Zepp Sapporo
 エレカシが札幌に来るときはよほどのことがない限り必ず行っているのだけど、ここ数年会場はペニーレーンだった。エレカシZeppでやったライヴで僕が最後に行った記憶があるのは「ガストロンジャー」が出る前後のことで、だから1999年の暮れくらいだったと思う。残念ながら満員とは程遠い入りだった。しかし、そこから紆余曲折を経てエレカシはまたZeppに戻ってきた。そしてこの日は10年前と違いほぼ満員に近かった。キャリア20年を超え、セールスや動員がピークから落ちたバンドがまた盛り返すことは正直珍しいと思う。Zepp Sapporoどころか8年ぶりの武道館までやったのだ。そしてその盛り上がりが、彼らがいい曲を作り受け入れられているというシンプルな結果であることを考えるとより一層嬉しいし、感慨深い。
 前回のツアーと同様、キーボードに蔦谷好位置、ギターにヒラマミキオをサポートに迎えた6人体制。ペニーレーンだと若干狭そうだったこの編成もZeppならまったく問題なし。新作の1曲目、「Sky is Blue」からスタート。イントロのスライドギターは宮本が演奏していた。そしていきなり2曲目にデビューアルバムから「星の砂」。これはちょっと意表を突かれた。おなじくデビューアルバムからは「BLUE DAYS」も演奏されたのだけど、いずれもメチャクチャカッコよかった。僕は20年以上経った今でもあのデビューアルバムはカッコいいし、いい曲がそろっているし、なぜ売れなかったのか理解できないのだけど、こうして現在のエレカシと地続きで演奏されても曲のポテンシャルや演奏のダイナミズムは全く色褪せていないと思う。古臭さが全く感じられない。デビュー作からの2曲の間に新作の中でも最もバンドっぽい「おかみさん」が挟まり、その後も前作から「まぬけなJohnny」や「さよならパーティー」などシンプルなバンドアレンジの曲が並ぶ前半はサポートがいるとは言え、エレカシの4人の音がきっちりと軸になっているからこそなのだということがよくわかる構成になっていた。
 基本的には前作と新作との曲が中心になっていたが、その中に挟まれる昔の曲がいろんなことを考えさせてくれるものだった。エピックをクビになり、小さなライブハウスで新たなスタートを切ろうとしていたときに生まれた「悲しみの果て」。バンドとして初めてブレイクを経験し、その後セールスが落ちていったときに生まれた葛藤の「暑中見舞」。アンコールで歌われた「今宵の月のように」は言うに及ばず、バンドが岐路に立ったときにその状況を打破すべく生まれた珠玉のアンセムたちである。それを、前のツアーのときのように宮本はそのときの状況や心情を丁寧に解説しながら歌うのである。エレカシは一日にして成らず。遠回りしても、道に迷っても、全てがあって今この再ブレイクに至ったのだ。本編後半はユニヴァーサルに移籍してからのポップな名曲揃い。「ハナウタ」なんかは、すでにスタンダードな匂いすら発している。本当にいい曲だ。この6人体制での演奏もほぼ完成の域に達し、全く不安なところがない。余計なことに気を取られない分曲の良さが最大限に伝わってくる。
 アンコールのラストは「ガストロンジャー」から「俺たちの明日」の2連発。片や宮本のソロと言ってもいいようなプロダクションで暴走気味に作られたアジテーションナンバーであり、もう片方は素直に曲を大衆に伝えたい、という想いで周りのスタッフやプロデューサー、アレンジャーの力とともに作った曲だ。両極にあるようなこの2曲が、聞いた瞬間エレファントカシマシとしか言いようのないものとして認識できるのは不思議である。それが宮本という人の才能の大きさなのだろう。そしてこの日思ったのはZeppを埋めたファンのうち、僕のような古参のファンはおそらく半分くらいだったのではないかということ。半分はここ10年、もしくはそれこそ「俺たちの明日」以降エレカシのファンになった若い人たちだったと思う。そういう人たちはエレカシを普通に今新しく出会ったとてもカッコいいバンドとして見ているのだと思う。それがすごくうれしい。
 夜が来ても、太陽はまた昇る。今のエレカシを見ていると、ちょっとくらい辛いことがあっても何とか踏ん張っていればまた光の中に出て行けるんじゃないか、という気がしてくる。12年前にも思ったことだが、そこから一回沈んだ分重みと説得力が違う。やっぱりエレカシはすげぇだろ、って世界中の人に自慢したい気分だ。

■SET LIST
1.Sky is Blue
2.星の砂
3.おかみさん
4.BLUE DAYS
5.まぬけなJohnny
6.さよならパーティー
7.悲しみの果て
8.絆
9.ネヴァーエンディングストーリー
10.ジョニーの彷徨
11.暑中見舞−憂鬱な午後−
12.リッスントゥザミュージック
13.It's my life
14.笑顔の未来へ
15.あの風のように
16.ハナウタ〜遠い昔からの物語
17.桜の花、舞い上がる道を
18.FLYER
19.新しい季節へキミと
<アンコール>
20.今宵の月のように
21.ガストロンジャー
22.俺たちの明日

 ああ、ひとつ書き忘れた。ライヴ見ていて、本当にどうしようもなくこらえ切れなくなって涙が出てきたんだけど、それが「笑顔の未来へ」のときだった。真っ白い照明の中で演奏する彼らは神々しく、全能感に溢れていて。満員のファンは本当にみんな笑顔で拳を上げていて。これ以上ないくらいだったんだけど、それでも宮本は笑顔の未来へ連れて行くよ、と歌っていた。それがもう、震えるくらい感動的だったのだ。