無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ポップの光と闇。

スリラー(紙ジャケット仕様)

スリラー(紙ジャケット仕様)

 キング・オブ・ポップ逝く。
 僕のような80年代直撃世代は音楽に興味を持ち始めた思春期に見たMTVの影響がとにかく大きくて、それはつまりマイケル・ジャクソンの時代だったのだ。『オフ・ザ・ウォール』、『スリラー』、『BAD』の3枚はレンタルレコード(CDじゃない)で借りてカセットテープ(僕のオキニはマクセルのUD2)が伸びるくらい聞いた。そしてあの「スリラー」のビデオ。ジョン・ランディス監督によるプロモーションビデオというよりはむしろ短編映画ともいうべきあのビデオが与えた影響は計り知れない。10数分のビデオを日本初公開という特番か何かで見たときは衝撃だった。ラストのマイケルが振り向いた顔がとにかく怖かったのを覚えている。
 一枚選べといわれたら、やっぱり『スリラー』だ。全世界で4000万枚以上のセールスを記録し、ギネスブックにも認定されている化け物だが、そのセールスはダテじゃない。全9曲中6曲がシングルヒットするという信じられないようなこのアルバムは、良くも悪くも80年代を象徴する作品であると言える。クインシー・ジョーンズのプロデュースによるポップでコンテンポラリーな音は今聞いても驚くほどにスムーズなポップス。ここに足りないのはヒップホップ/ラップの要素くらいじゃないだろうか。まだ色が黒く、鼻もダンゴだったマイケル・ジャクソンの若き日の歌声は初々しく、はちきれんばかりの輝きを放っている。好き/嫌いにかかわらず少しでも洋楽に興味があればとりあえず知識としてでも聞いておくべきアルバム。ちょうど僕が小学生のときに大流行したのだけど、ちょっと運動神経のいいやつはすぐにマイケルのダンスをまねしていた。ムーン・ウォークができるのがひとつのステイタスでもあったのだ。僕はできなかった。懐かしい時代。
 『BAD』の頃になると私生活のスキャンダルや創作上のスランプが囁かれだしたりもしたが、それは世界的大スターの持つ宿命とでも言うもので、さらに幼少時代のトラウマがアーティストとしての彼の暗い業だったのだと思う。万人に開かれたポップスというものは輝きが強い分、そこには必ずそれに匹敵する闇が存在している。それを初めて学んだのもマイケルの音楽と人生からだった。ご冥福をお祈りします。