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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

数え切れぬ夜を越えて。

吉井和哉 『TOUR2009 宇宙一周旅行』
■2009/06/23@北海道厚生年金会館
 吉井和哉はロックスターである。何をいまさら、と言うかもしれないが、この日のライブは徹頭徹尾、そういうことなんだなあと思いながら引き込まれていたのだった。そういう自分を演出するとかいうことではなく、単純にそこにいるだけでロックスターのオーラが漂ってしまうのである。そういう人は日本人では本当に少ない。
「ノーパン」というミドルナンバーからじっとりと始まったライブは、『VOLT』という吉井和哉による吉井和哉のためのロックアルバムを惜しみなく再現し、イエモンのナンバーからソロまで縦横無尽に網羅するセット。イエモンの曲は「ROCK STAR」である。これはもう、はっきりと自覚しているのではないか。自分はそういう人間なんだという宿命を。ソロ初期は意識的にロックスターな自分から離れようとしていたが、前々作あたりからきっちりと受け入れている。優雅な立居振る舞いから若干セクハラ気味のMC、そして完璧な歌唱。前のツアーもそうだったが、どこをとっても非の打ち所の無いパフォーマンスである。「宇宙一周旅行」というツアータイトルは一瞬何のことだかよく分からないが、ソロビュー作の1曲目「20 GO」を聞いてはたと思った。ソロデビューアルバムは『at the Black Hole』である。ブラックホールから始まったソロキャリアが宇宙を一周して現在地に辿り着いたのだ。そんなことを考えるとこの圧倒的なパフォーマンスがさらに素晴らしいものに思えてきた。
 前回のツアーはアメリカでのレコーディングメンバーを中心とした鉄壁のバンドだったが、今回はギターにJulian Coryellがいるくらいで、ほとんどはこのツアーのために集まったメンバー。ドラムはトライセラトップス吉田佳史だったが、彼が非常にいいプレイをしていた。吉井もメンバーにいろいろとちょっかいを出しつつ(ギターに緊縛プレイとかしていた)、決して寄せ集めではない一体感を演奏から醸し出していた。「恋の花」は『39108』収録のアコースティックアレンジではなく当初目論んでいたバンドアレンジでの演奏。吉井和哉史上最高のギターリフが炸裂する「ビルマニア」を本編ラストの一番オイシイところに持ってくるなど、構成の押し引きも貫禄十分。右肩上がりで盛り上がって、当然アンコールを求める拍手も大きくなろうというものだ。
 「PHOENIX」「WEEKENDER」とアゲアゲなナンバーを続けざまに放って盛り上げた後、「Shine and Eternity」でシンガロング、そして「またチャンダラ」でパッと終了。おなか一杯なはずなのに、まだ見たい、もっと感じたいという空腹感を刺激するこの上手さ。再アンコールの拍手は止むことなく、吉井和哉が一人で登場。元WESSの山本氏が独立しマウントアライヴというイベンター会社を新たに立ち上げ、自分がそちらに移ったこと、年末にクリスマスライヴを札幌で行うことなどを発表し、それで帰るのかと思いきやギター一本取り出して歌おうとするではないか。ものすごい歓声。「さて、何を歌おっかな」と彼が演奏し始めたのは、そう、「JAM」である。イエモンの代名詞と言える名曲であり、また1990年代の日本のロック史においても非常に重要な意味を持つこの曲を、ソロアーティスト吉井和哉は歌った。ファンサービスと言ってしまえばそれまでだが、単なるサービスと言うだけではこの曲に手は出せないだろう。やはり今の吉井和哉がソロアーティストとして自分自身のロックを確立したことで、彼がこの曲を歌うことができたのではないのかと思う。吉井和哉が「JAM」を歌うという行為は、人それぞれ思いはあるだろうが、他のイエモンの曲を歌うというのとは違う特別な意味を持ってしまうことは間違いない。それを分かっていて、敢えて歌ったのだ。しかもそれはこの日の札幌だけの特別なことではないようだ。吉井和哉はとうとうここまで来た。かつてのバンドの幻影を引き摺ることなく、対等な立場でその音楽を受け入れるところまで。それは本当に、感動的な瞬間だった。

■SET LIST
1.ノーパン
2.フロリダ
3.Biri
4.HOLD ME TIGHT
5.ウォーキングマン
6.ヘヴンリー
7.20 GO
8.魔法使いジェニー
9.MUDDY WATER
10.ROCK STAR
11.SNOW
12.シュレッダー
13.ONE DAY
14.恋の花(オリジナルヴァージョン)
15.TALI
16.ルビー
17.トブヨウニ
18.ビルマニア
<アンコール 1>
19.PHOENIX
20.WEEKENDER
21.Shine and Eternity
22.またチャンダラ
<アンコール 2>
23.JAM