無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

鳴っちゃった。

VOLT 初回限定盤【CD+DVD】

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 吉井和哉、約1年半ぶりのソロ第5作(もうそんなになるのか)。例のごとくアメリカでジョシュ・フリーズやジュリアン・コリエルらとレコーディングしているのだけど、だいぶバンドとしてメンバーが固まり、阿吽の呼吸で演奏ができるようになってきたのだろう。これまでに比べても曲調は結構幅広いのだが、どんなメロディーやアレンジでも一本筋の通ったロックが中心にドンと構えている。そう、本作でかなり決定版的に、吉井和哉としての「ロック」が鳴ったという印象だ。
 本人も「フロリダ」の中で「鳴っちゃったんだよ鳴っちゃったんだよ初めてなんだよ/アメリカで本当のロックが鳴っちゃったんだよ」とそのままじゃないか、というくらい臆面もなく歌ってしまっている。要因はいろいろあって、前述のように向こうのミュージシャンとの意思疎通が円滑に行えるようになったということもあるだろうが、まず吉井和哉本人が本作ではいろんな面で飾らずにストレートに音楽に向かっているのが大きいと思う。冒頭の「ビルマニア」から、ほぼ全編で吉井自身のギターがフィーチャーされているが、これまでだったら自分ではなくもっと腕のいいギタリストの音を使っていただろう。仮にヘタだったにせよ、プロのギタリストよりも自分のギターを選んだのだ。それはこのアルバムで吉井和哉が生身の自分自身で勝負する、それでも、というかそれでこそ自分のロックがひとつ上のレベルに行けると確信したのだろう。それだけのものが積み重ねられたというこれまでのソロ作の自信と、あとは前回の「Dragon Head Miracle Tour」でのロックモード全開のパフォーマンスが影響したとも考えられる。
 ストレートなロックンロールからブルース、歌謡曲チックでポップなメロディーもあるし、曲調としては幅広い。それでもアルバム全体のイメージとしては非常にソリッドである。イエローモンキー時代にも、そういう傑作があった。『SICKS』というアルバムである。その後のイエモンはボディービルのようにロックを纏ったアルバムを作ったり、外部のプロデューサーとコラボしたりしたが、結局解散した。ソロとしての吉井和哉はこの、決定版MYロックの次に何を目指し、何を成し遂げようとするのだろう。そんなことを思うほどに高密度なロックが鳴っているアルバム。案外、「自分のロックが鳴っちゃったよ楽しー」モードでもう一枚くらい作るのかもしれないけど。