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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

気高き孤独が救われた夜。

佐野元春&THE COYOTE BAND  2009年夏 全国ライブハウスツアー『COYOTE
■2009/07/25@Zepp Sendai
 佐野元春の音楽活動は常にライブにおける観客とのコミュニケーションの中でその方向性と意味が成立してきたと言ってもいいと思う。アルバム『COYOTE』が発表されてから2年が経過して、ようやく行われるツアー。その間にも、アメリカの大統領は最悪の汚名をかぶった男から希望の星へと変わった。しかし戦争は終わっていないし、世界の経済もいまだ混乱したままだ。我々庶民のさまよえる魂は行き場を失ったまま、日々をとりあえずやり過ごしている。そんな状況で、「海を目指せ」というひとつのな結論を導いたアルバム『COYOTE』がライブという空間の中でどう位置づけられ、昇華されるのか。ファンとして絶対に見届けなければいけないと思った。ツアーのラインナップに札幌がなかった(何故!?)ので、こうして仙台まで追いかけることにしたのだ。
 開演前、SEとしてNHK-FMの「元春レイディオ・ショー」が流れていた。今年から元春は久々にラジオDJとしてのレギュラーを復活させた。過去、いつかの放送分だと思うが、それをそのまま使っていたのだ。開演時間が近づき、BGMのレイディオ・ショーも最後の曲になる。「君が気高い孤独なら」が流れ、音量が増して行く。それと共に自然と沸きあがる拍手と歓声。すごくいい雰囲気。どんどん気分が高揚してくるのがわかる。ほどなく客電が落ち、開演。ラフな服装の元春は1曲目「星の下 路の上」から非常によく動く。軽快にステップを決め、足を高く上げてキック!若々しく溌剌としたオープニングである。ツアーバンドは彼の新しい仲間、「THE COYOTE BAND」。メンバーは『COYOTE』のレコーディングメンバーである深沼元昭(Gt)、高桑圭(Bs)、小松シゲル(Dr)に大井’スパム’洋輔(Perc)、渡辺シュンスケ(Key)を加えた編成。Hobo King Bandほどの熟練はないが、実力派のプレーヤーによるタイトで熱い演奏を聞かせる。アルバム『COYOTE』の前にこの新しいメンバーで録音されたEPから「ヒナギク月〜」と「裸の瞳」を挟んだが、それ以外は『COYOTE』をそのまま通しで再現するというセットだった。『The SUN』ツアーのときも同じようなやり方だったが、あの時は全曲ではなかったし、曲順や構成もライブ用に組み替えられていた。『COYOTE』というアルバムはロードムービーのサントラを意識して作ったと元春は語っている。ロードムービーというのはつまり、旅をするということ。出発地点があり、目的地があるということだ。その流れを変えてしまうということは全体の行程を変更してしまうことになる。『COYOTE』というアルバムをライヴで表現するにあたり、それは許されなかったということなのだろう。
 元春はバンドのエネルギーに触発されたようにとにかくよく動く。声も思ったより出ていた。「君が気高い孤独なら」での観客のコールも完璧に決まっていた。この時点で仙台まで来て正解だったと心から思う。アルバムを曲順通りに演奏するとわかったからと言ってつまらないわけではない。むしろその逆である。あの傑作を生で追体験できるのだ。それがスリリングでないわけがない。混迷する世界(荒地)で途方に暮れる孤独な魂が、他者と出会い、愛を覚え、友情を知り、世界の矛盾に悩み、そして海へと向かう。その旅を、元春は1時間強のステージで見事に表現した。ひとつ興味深いMCがあった。元春はこんなことを言っていた。「この新しいバンドでリハーサルを行っていたとき、新作に向けて僕は曲を書いて持っていった。こんな曲を書いたんだよ。やってみようって。そうすると彼らはこう言った。『佐野さん、この曲、佐野さんっぽくない』って。自分のことは他人の方ががよく知っている。」それはつまり、『COYOTE』で元春がやろうとした表現がそれまで彼が築き上げてきたものと違ったものだったということだ。アルバムの感想でも書いたが、元春という人は必要であればそういうことをやってしまう人なのだ。50歳を超えてなお、衰えぬ進化・変化への意思。頭が下がる思いだ。クライマックスは当然、「コヨーテ、海へ」である。『COYOTE』というアルバムで元春が提示した「海を目指す」というテーゼに対して、僕はややナイーヴすぎるのではないかと思っていた。しかし、このライブでその見方が間違っているのではと感じた。「海を目指す」、「海へ行く」というのはそれ自体が混迷の解決ではないのだ。海へ出て、航海が始まるのである。それは、もしかしたらそれまでの旅よりもつらいことなのかもしれない。それでも、その先に光があると信じて海へ行くという決意なのである。静かでありながら、壮絶なテンションで演奏される元春の弾き語りを聴いていて、僕はこのテーマが混迷に立ち向かう強い意思なのだと知った。生でこの演奏を聞かなければ、僕は大きな思い違いをしていたままだっただろう。やはり来て良かった。感動的なクライマックスだった。
 アンコールは、この若いメンバーで演奏される元春クラシック。元春流に言えば「僕の言いたいことはもう言い切った。ここからはみんなで思い切り楽しもう」というところか。「ヤングブラッズ」や「ダウンタウンボーイ」はぼくと同じか、もう少し上の世代の観客も大盛り上がり。2度目のアンコールでは「約束の橋」、そしてラストは「アンジェリーナ」である。デビュー曲をコンサートのラストに持ってきて、それが一番盛り上がるのだ。彼がこの30年間、常に既存の音楽を刷新し、新しい価値観を提示しようと苦闘してきたことが、このシンプルなロックンロールからはいまだに伝わって来るのである。そう、30年。来年で元春はデビュー30周年を迎える。いろいろとイベントや企画も用意されているようだ。回顧的な意味でも盛り上がるのだろうが、今日のようなライヴを見てしまうと、やはり元春は今のこの時代を映し出す現役のロックミュージシャンなのだと思う。一瞬でも、孤独で迷える魂が救われたような、そんな気持ちになる一夜だった。どうもありがとう。

■SET LIST
1.星の下 路の上
2.荒地の何処かで
3.君が気高い孤独なら
4.ヒナギク月に照らされて
5.裸の瞳
6.折れた翼
7.呼吸
8.ラジオ・デイズ
9.Us
10.夜空の果てまで
11.壊れた振り子
12.世界は誰の為に
13.コヨーテ、海へ
14.黄金色の天使
<アンコール1>
15.ぼくは大人になった
16.ヤングブラッズ
17.ダウンタウンボーイ
<アンコール2>
18.約束の橋
19.アンジェリーナ