無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO(2)〜RCサクセションが聞こえる。

■2009/08/14@石狩湾新港

 今年は、基本的に1アクト60〜70分という、フェスにしては長尺の時間設定になっている。その分、出演アーティスト数が少し減っているが、余裕を持ったスケジュールも可能になっている。空き時間は空き時間でゆっくり食事できるし。個人的には余裕を持って行動できた。次は、最後まで迷ったのだけど、やっぱりエレカシへ。電気命の嫁さんは当然、ムーンサーカスへまりんを見に。
 今のエレカシはライヴでハズすことがない。非常に安定している。以前の宮本はバンドの演奏にイラついたりキレたりすることが多く、それがバンドとしてのパフォーマンスに大きく影響を与えてしまうケースが多かった。蔦谷好位置ヒラマミキオを加えた6人編成でのエレカシのライヴはとにかく演奏が磐石で、宮本も絶大の信頼を置いている。その安心感が余裕を生み、宮本のボーカルも本来の力強さをストレートに伝えることができている。新作を引っさげての前回のツアーをなぞった構成。ライジングサンは2年ぶり2回目、サンステージは初めてだったが、この最も大きなステージにも全く引けを取らない圧倒的なスケール。「BLUE DAYS」とか、「今宵の月のように」しか知らないような人が聞いたらどう思うのだろう。こういう若い獰猛な衝動も、最近のポップで大きな広がりを持つ豊かな叙情も、「ガストロンジャー」のような攻撃性も、全てエレカシを構成するひとつの要素に過ぎない。当たり前のように初日サンステージのトリを飾る堂々とした姿に、エレカシというバンドの力を見せ付けられた気がする。トリと言う事でアンコールに応えてくれたが、ラストは「ファイティングマン」!個人的には、6人編成になってから初めて聞いた気がする。でも、あのリフはやはり石君が弾かなくてはダメなのだ。最高にカッコよかった。初期のエレカシのライヴと言うのはファン同士が自分の趣味を確かめ合う秘密集会のような匂いすらあったが、今のエレカシエレカシを知らない人にこそ見てもらうべきものだろう。フェスという場はそのための最高の舞台だと思う。一見さんをその場で圧倒し、引き込んでしまう力が今のエレカシの曲と演奏にはある。

エレファントカシマシ
1.Sky is blue
2.悲しみの果て
3.BLUE DAYS
4.ジョニーの彷徨
5.風に吹かれて
6.絆
7.友達がいるのさ
8.ハナウタ
9.ガストロンジャー

10.俺たちの明日
<アンコール>
11.今宵の月のように
12.ファイティングマン


 続いては、遠く会場外テントエリアまで移動し、ボヘミアンガーデンへ。仲井戸麗市&片山広明。チャボが、長年の盟友である片山氏(sax)とアコースティックステージを行う。それがどういう形態であれ、チャボがステージで表現を行うということは、少なくとも今現在それは清志郎への追悼の意味を含んでしまうことになる。チャボがどう思うかにかかわらず、見る者にとってはそういう意識があるし、当然そういう内容のものを期待してしまいもする。どういう内容のステージになるかはわからなかったけれど、僕自身、やはりチャボ本人の口から清志郎への何がしかの想いと言うものを聞きたくてステージに足を運んだことは否定しない。あそこに集まった人たちは多かれ少なかれ同じ考えを持っていただろう。
 ボヘミアンガーデンはステージと観客の距離が近いので非常にアットホームなムードが漂う。長年ライジングサンに参加しているが、ここできちんとステージを見るのはこれが初めてなのだった。いつも何かとかぶっていたのと、遠いこともあってなかなか来ることができなかった。前列の観客の声がステージ上のマイクに入るほどの近さである。チャボが登場したときの歓声は、アンプを通って広大な会場の片隅に響き渡る。意外と、と言っては失礼かもしれないが、チャボは元気そうだ。「ウッドストック」を弾き語りで歌った後、ステージに片山氏を呼び上げる。片山氏はスーツ姿で登場。この日札幌のジャズバーでひとつステージを行ってきた後なのだそうだ。チャボがミスをした片山氏をからかったり、非常にリラックスしたほのぼのムードでステージは進行してゆく。息の合った二人のプレイはアイコンタクトで次のプレイが選択されていくような阿吽の呼吸である。ストレイキャッツの「ロンリー・サマー・ナイト」のカバーなども交えて、いい雰囲気だ。ここでゲストを呼ぶと言うことで、明日フライングキッズでの出番を控えた浜崎貴司が登場。最近、浜崎がチャボをライヴに呼んでコラボレートしたりしているそうだ。ビートルズの「オール・マイ・ラヴィング」を演奏。続いては、いよいよ、RCサクセションの曲をやる。特に直接的なメッセージがあったわけではないのだけど、「オレと彼とで作ってきた曲だから、やってもいいよな」というようなことを言っていたと思う。ゲストヴォーカリストとしてこちらも翌日に出番を控えたLeyonaが登場。「君が僕を知ってる」を演奏。続いて、アコースティックで「キモちE」。終わってチャボが一言「どうだ、アコースティックでもロックできるんだぜ」。全くその通りである。そして、「最高の曲」ということで、「スローバラード」。チャボが歌い、片山氏がサックスを吹く。ここで、泣きそうになってしまう。この時点でいいものが見れたな、ありがとうチャボと思っていたのだけど、次が本当にやばかった。バディ・ミラーの日本語カバーで"I Can't Get Over You"をやったのだけど、チャボのつけた日本語詞がこんな感じだった。

あれから ずっと 努力してるんだ
君の不在を受け入れることを

 ああ、もう、これで全てがわかってしまう。やっぱり、チャボもまだ乗り越えられていないのだ。清志郎への本音のメッセージ。前述のように、チャボが歌うと言うことは、特にRCの曲をやるなんてなれば、そこに清志郎の影がずっとついてまわるだろう。今はもちろん、この先何年も、もしかしたらチャボがステージで歌う限りそうなのかもしれない。チャボがそれを仮に拒否したところで、どうにもならないだろう。見ている我々よりも、ずっと苦しいはずなのだ、チャボは。しかし、それも含めてチャボはエンターテインメントとして、きちんと向き合ってステージで歌うことを決意している。歌うことでしかそれは乗り越えられないと言うことを彼は知っているのだと思う。エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース。チャボはそう歌っていた。清志郎が死んでしまった。それも、自分の人生に起こる数々のブルースのひとつなのだ。ブルースマンとして、チャボはそれを歌わなくてはいけない。その覚悟は、きっちりと伝わってきた。最後は、浜崎貴司Leyona、そして清志郎をずっと支えてきたスタッフらも登場し、全員で「雨上がりの夜空に」の大合唱。観客もみんな歌いながら、泣いていた。感動だった。すごくいいステージだった。ベストアクト、と言うとちょっと語弊があるのだけど、今年最も心に残るステージのひとつだったことは間違いない。ありがとう、チャボ、片山さん。そして改めてありがとう、清志郎

■仲井戸”CHABO”麗市with片山広明
1.ウッドストック
2.Everybody I Have The Blues
3.Blue Moon
4.Lonely Summer Night
5.All My Loving(feat:浜崎貴司
6.君が僕を知ってる(feat:Leyona
7.キモチE
8.スローバラード
9.I Can't Get Over You
10.雨上がりの夜空に

 nyoさんご夫妻とステージの余韻に浸りつつ、小腹がすいたのでラーメンをいただく。稲川淳二の怖い話も聞きたかったが、待ち時間が長いのと明日のために睡眠をきちんととっておきたかったのでテントに戻る。嫁さんのためにメロンパンを買って行ったんだけど、これがえらく美味かった。今年食べたものの中で一番美味かったもののひとつ。