無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO(3)〜そしてまたフライングキッズ。

■2009/08/15@石狩湾新港

 前日の夜、寝る前に嫁と各々見たものの感想を話していた。テントの中で嫁がずっと吉川晃司を聞いていたらしいのだが、「MCはすごい普通なのに歌いだすと途端に滑舌が悪くなるのが不思議」と言っていて妙に面白かった。あと、まりんは相変わらずだったようです。まあ、昨年も電気に飛び入りしてたんだけど。今年はさほど夜も寒くはなく、Tシャツ短パンでも凍えそうになることはなかった。毎年寝てる間一度くらいは寒さで目が覚めてしまうものだけど、今年は汗だくで目が覚めるまで起きることもなかった。気温としては、ここ数年でも安定していた2日間だと思う。2日目も雲はあるが基本的には晴れていて、青空が見える。洗顔や歯磨きを済ませ、会場内をぐるっと一回り。そこかしこで肉を焼く匂いがしてくる。落ち着いたところで朝食に出かける。アーステント側のレストランエリアで朝食。チキンステーキ丼とビール。食べながら嫁と今日の予定など話していると、近くのホットドッグ屋の兄ちゃんが漫談のような客引きでウケを取っていた。がんばるねえ。ちょっと面白かったので何か買ってあげようかと思ったけど、おなかいっぱいだったのでやめた。

 一服して会場内を散歩しつつ、テントに戻ってまったり。この辺で開場したようで、人が増えてくる。増えてくると言っても昨年や一昨年ほどではなく、全体として今年は人が少なめに感じた。アーステント側に会場が相当拡大したこともあって、人口密度としてもかなり減少してはいたと思うが、そもそも今年は参加人数自体が前年に比べて少なかったのではないかと思う。ぎりぎりにステージに行っても結構前のエリアに入れることも少なくなかったし、会場内の移動も渋滞でストレスを感じることはほとんどなかった。トイレにアホみたいに行列ができることも僕の知る限りはなかった。昨年のミスチルみたいな裏技はなかったにしても、決して今年のメンツが地味とは思わないのだが、今年は通し券のみの販売など、コアなファン以外の参加を控えさせる要素もあったかもしれない。実際の入場者数を知らないので本当のところどうだったのかはわかりませんが。

 12時を回ったあたりでゆるゆるとサンステージに移動。主催者の挨拶とゴミ分別のお話を聞く。この日、サンステージのオープニングを飾るのはビートクルセイダーズ。なんというか、彼らなら絶対に盛り上げてくれるよなという絶対の安心感がある。「FEEL」から始まり、定番とも言える曲を惜しげもなく繰り出すガチンコ勝負。ただのセクハラという噂もある「オ○ンコール」もすでに夏の風物詩の趣。途中、「ウォーアイニー」で高橋瞳がゲストで登場。バックでギターを弾くヒダカは単なるエロオヤジの雰囲気。盛り上がりすぎて、ステージから降りようとしたケイタイモが階段でコケてしまい、負傷するというアクシデントもあった。足を引きずりながらステージに何とか戻ったが、その後のケイタイモは明らかに動きに精彩を欠いていた。仕方がありませんが。骨には異常はなく、肉離れだったそうで。お大事に。ほとんどの人が初めてだったはずの新曲「LET IT GO」でのコールも見事に決まる(曲がわかりやすいから)。昨年同様「SUMMEREND」ではブラッドサースティブッチャーズの吉村秀樹がゲスト参加。北海道の夏は短い。ライジングサンが終わると、あっという間に秋の空気になる。そんなことを思いながらこの曲を聴いていると、ちょっと切なくなる。ラストは「TIME FLIES,〜」ではじけて終了。本当にすべらないバンドだ。以前のビークルはこういうフェスでも「や、自分ら結局イロもんなんで、メインは他の方々におまかせしてとりあえず場汚ししときます」的な卑屈感というか遠慮が見えたものだけど、今は堂々と自分らの役目を引き受けているように見える。『popdod』というアルバムもそういうものだったけど、10周年とかヒダカ40歳とかいろいろな節目を経て意識が変わってきたのだろう。いいことだと思う。

BEAT CRUSADERS
1.FEEL
2.LAST GOOD-BYE
3.SHOOTING STAR
4.CUM ON FEEL THE NOIZE
5.CHINESE JET SET
6.ウォーアイニー(with 高橋瞳
7.SHOOT THE SKY
8.HIT IN THE USA
9.LET IT GO
10.DAY AFTER DAY
11.EYES IN THE SKY
12.SUMMEREND(with 吉村秀樹
13.TIME FLIES, EVERYTHING GOES


 続いては、Dragon Ash。前回のエントリにも書いたのだけど、今回は1アクト60〜70分という時間設定だったのでステージそのものは非常に密度の高い満足いくものが多かった。だが、セットチェンジの時間も長く、サンステージでは基本50分という長い間隔が設定されていた。なので、ずっとステージ前で待っているというのはなかなか辛く、ステージの合間は総とっかえ状態に近いような感じになることも多かった。結果として、前のアクトが盛り上がっても次のアクトの時にはその熱がすっかりリセットされて冷めてしまうということにもなる。個人的には、このビークル→DAという流れでそれを強く感じた。本来ならビークルが温めてDAでさらに爆発、となるはずが、DAのライヴはなかなか最初から全開とは行かなかったように見える。それでもさすがにDAである。どこの夏フェスでもメインを張れるその力と今のバンドのいい状態を見せ付けるような1時間だった。その、一旦リセットされたような空気を2曲目の「For divers area」でもう一回、力技で引き上げる。懐かしい「Let yourself go,〜」はラテン風アレンジで蘇り、新たなグルーヴを獲得していた。新曲「CALLIN'」は最新作『FREEDOM』の延長線上にある、エモーショナルなメロディーを持つサビとラテンミュージックのグルーヴが溶け合った佳曲。前作と最新作から代表曲をつないでいくような贅沢な流れ。メロウなメロディーとラテンのグルーヴが心地よい。そしてその後「百合の咲く場所で」で再びタテノリに盛り上がる。「ミクスチャーロックは、好きですかー!」kjはそう言って、観客を煽る。そして必殺の「FANTASISTA」。フェスでこの曲やって盛り上がらないわけがない。絶対の鉄板である。DAは今でも「ミクスチャーロック」という言葉で自分らの音楽を定義しているのだと思う。現在の彼らの音楽は単純な足し算では生まれ得ない、真にオリジナルなミクスチャーであり、そしてそれこそが本来のミクスチャーという言葉の持つ意味なのである。ヒップホップを基にした以前のそれと現在のDAの「ミクスチャー」は全く位相が違う。しかし、新旧の曲が並んだこの日の演奏を通じて常に「ミクスチャー」を追求してきたバンドのプライドが見えてきたような気がする。それがあったからこそ、当時同じような括りで語られていたバンド達が解散したり苦しい状況に追い込まれても、DAだけは第一線でサヴァイヴし新たな可能性を切り開いてきたのだと思う。

Dragon Ash
1.運命共同体
2.For divers area
3.Let yourself go, Let myself go
4.Ivory
5.CALLIN'
6.繋がり SUNSET
7.Velvet Touch
8.La Bamba
9.few lights till night
10.百合の咲く場所で
11.FANTASISTA
12.静かな日々の階段を


 テントで休んでいた嫁と一緒にグリーンオアシスに移動。今年のグリーンオアシスはとんがりテント型のステージからオープンなステージになっていた。規模としては大体レッドスターと同じくらい。ここで2年ぶりのフライングキッズ。前回、再結成して出演したときはその後も継続して活動するのかそれとも1回きりのステージなのかはっきりとは分からなかった。ただ、あのときの圧倒的な歓迎ムードと今も色褪せない数々の名曲、そして完璧な演奏は、今フライングキッズがシーンにいても十分な存在感を放てるのではないかと感じさせるに十分だった。恐らくはそういう手応えを本人たちも感じていたのだろう。今年の4月には配信限定の新曲「ドマナツ」をリリースし、9月にはなんと新作アルバムも出るという。本格的な再始動のようだ。これは、イカ天世代としてスルーするわけにはいかないのだ。
 会場は、僕のようにリアルタイムでファンだった人間と、もっと若い世代が入り混じっている。1曲目「セクシーフレンド〜」からヘヴィーなファンクネスがブリブリとステージ上から流れ込んで来る。「野生のハマザキ」から「あれの歌」と、どちらかというと初期のファンク志向が今のフライングキッズのモードに近いようだ。個人的にも初期の方が好きだったので、これはいい。「我想うゆえに我あり」なんて、今聞いても普通にカッコいいと思う。こんな曲でアマチュアバンドがテレビに出たら、そりゃあチャンピオンになるよ。そして9月発売の新作から「激しい雨」という新曲を演奏。ゆったりとした語り口調のAメロから分かりやすいメロディーを持つサビへと展開する曲。メロディーそのものは優しいが、リズムはきちんとファンクを刻んでいる。フライングキッズの新曲、という感じだ。歌詞は40を過ぎた人生の重みと悲しみ、そしてささやかな希望を感じさせるもので、様々な経験を経た人間の言葉という感じがする。再結成するなら、やはりこうでなくてはと思う。「ディスカバリー」、「心は言葉に包まれて」、そして「幸せであるように」と、名曲のオンパレード。最後は先に出た新曲「ドマナツ」。この季節にぴったりの、サビのメロディーがどこかキュンと来るフライングキッズらしいポップ・ファンクである。良かった。2年前にも書いたのだけど、こういうファンク基調のポップソングをメジャーシーンど真ん中でやるアーティスト・バンドというのはこの10年で言えばスガシカオ以外ほとんどいなかったと思う。特に、フライングキッズのような青春ストレートな(そしてちょっとエロな)胸キュンポップファンクをやる存在というのは、いなかったのである。だからこそ2年前もこれで終わるのはもったいない、と書いたのだけど、こうして新作を出すまでになってくれて本当にうれしい。この日の観客は、2年前ほどたくさんではなかったけれど、ステージ前と後ではぜんぜん数が違っていた。それだけ、彼らの曲とステージには、人をひきつける力があるのだ。ツアーとかもやってほしいと思うのだけど、どうだろう。そして、フライングキッズというバンドがいることをもっと多くの、できれば若い人に知ってもらいたい。フライングキッズと新しく出会って、彼らの曲を聴いてもらいたい。それはきっと、素晴らしい体験になるはずだと思う。

FLYING KIDS
1.セクシーフレンド・シックスティーナイン
2.野生のハマザキ
3.あれの歌
4.我想うゆえに我あり
5.激しい雨
6.ディスカバリー
7.心は言葉につつまれて
8.幸せであるように
9.ドマナツ