無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

奇跡の軌跡。

昇れる太陽

昇れる太陽

 エレファントカシマシ、1年3ヵ月ぶりの新作。ユニヴァーサル移籍後のいい状態をそのままパッケージした、現在のエレカシの総決算とも言えるようなアルバムだと思う。
 移籍後の、つまりは「俺たちの明日」以降のエレカシと言うのは前向きでポジティブなメッセージを分かり易く力強いメロディーと洗練されたアレンジに乗せて歌っている。それは数多くのタイアップや好調なセールスアクションとして結果になった。それをセルアウトしたと言うのは容易いが、これはそんな簡単な問題ではない。以前にもエレカシは外部のプロデューサーやアレンジャーを迎えたことはあったし、一定の成果を出してもいたが、かつてのそれと今が違うのは今はバンドが、と言うか宮本浩次が「4人だけで音を出す」ことにこだわりを持っていない(言い換えれば、いい意味で諦めている)ところだと思う。自分たちの音楽を大衆にストレートに届けたい、という目的のためには今のようなやり方が最も適していると気づいたのだ。もちろん、蔦谷好位置やYANAGIMANを始め、周囲のスタッフやミュージシャンへの圧倒的な信頼があればこそだと思う。今の宮本は4人だけではなくバンド周辺の人々を含め、エレファントカシマシという名前をもっと大きな単位で考えているのじゃないだろうか、という気すらする。そんなアルバムの中で唯一、バンドへのこだわりが見られる「おかみさん」のようなソリッドな音が非常にいいスパイスを効かせている。
 なぜ宮本は「俺たちの明日」という曲を作れたのか。「桜の花、舞い上がる道を」や「新しい季節へ君と」を作れたのか。それにはいろいろな要因があると思う。年を重ねたこと、デビューして20年、様々な挫折と経験を経てきたこともそうだろう。そしてその中でも2000年代以降、自分の人生を非常に文学的・哲学的なアプローチで見つめなおし、「生と死は等価である」というテーマを掘り下げたことが非常に重要だったと思う。セールスには結びつかなかったものの、『扉』や『町を見下ろす丘』はその過程で生まれた傑作だったと思う。特に後者は現在のエレカシのポジティブなテーマに繋がる非常に重要なアルバムであると思う。一足飛びにここに辿り着いたのではない。ひとつの結果が生まれることにより、それまでの道程が意味を持って生まれ変わる。エレカシの軌跡とはそんな凸凹の繰り返しだ。それはまさに人生そのものである。
 この時期に、そんな軌跡をまとめて追体験できるベスト盤が所属レコード会社別に一気に3作出るというのは、今のエレカシが充実した決定版を出し、ひとつの頂点に達したことと決して無関係ではない。
エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記

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エレカシ自選作品集 PONY CANYON 浪漫記

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エレカシ自選作品集 EMI 胎動記

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