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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

21世紀、ロックの指標。

21st Century Breakdown

21st Century Breakdown

 グリーンデイの実に4年半ぶりとなる最新作。前作『アメリカン・イディオット』はパンク・オペラという新しい手法を用い、ブッシュ政権を断罪し、そしてロックが持つ青春性の栄光と挫折(それはまさにグリーンデイの辿った軌跡そのものでもある)を多様なストーリーで描き出した名作であった。グリーンデイにとってはもちろん、ポップ・パンクの歴史にとって、もっと言えば2000年代のロックにおいてひとつのマイルストーンとなり今後も語り継がれていくであろうアルバムであることは間違いない。そんなアルバムの次に何を作るのか、そのプレッシャーがどれほどのものだったかは容易には想像ができない。グリーンデイは今作までのインターバルの間フォックスボロ・ホットタブスという変名でシンプルなパンクアルバムをリリースしているが、そういうガス抜きがなくてはやっていけないほど切羽詰った状況だったのだろう。
 本作は「ヒーローとペテン師」「いかさま師と聖人」「馬蹄と手榴弾」という3つのパートに別れている。前作同様パンク・オペラ的な手法を用い、グロリアとクリスチャンという二人の主人公が理想を持ち、戦い、挫折していく姿を前作以上に重層的なストーリーで描いていく。ここで描かれているのは、歴史の浅いアメリカという国が世界一の大国になるために生み出した矛盾と歪みである。それがリアリティを持って響いてくるのは、アメリカの持つ歪みそのものが現在の我々の生活に少なからず影響を及ぼしているからだ。『アメリカン・イディオット』で世界を制覇したグリーンデイにとって、次作がこの成功を謳歌するようなアルバムになってもさほど大きな批判は浴びなかったかもしれない。しかし彼らはもっと踏み込んでさらに厳しい作品を作った。アメリカの歴史を暴き、現在のアメリカを断罪するような、激しい作品を作った。ブッシュが去り、オバマ政権誕生に沸くかの国にあってこの作品の持つ厳しさは圧倒的にリアリズムに満ちている。オバマが大統領になったからといってすぐに何かが変わるわけではない。問題は山積みであり、アメリカの歪みと、アメリカが世界に残した傷跡は今も生々しく残ったままだ。グリーンデイはそれを「21世紀のブレイクダウン」と題した。目先の変化に浮かれないこの視線を僕は圧倒的に信頼する。ロックという音楽表現が21世紀のこの時代にあって政治的なメッセージを内包するのなら、グリーンデイのアプローチはひとつの大きなヒントと成り得るのではないかと思う。
 そして最も重要なのはこのアルバムはどこを切ってもグリーンデイらしいポップなメロディーとスピード感のあるビート、シンプルなアンサンブルで貫かれているということだ。『アメリカン・イディオット』もそうだったが、自分たちの持っている音楽を磨き上げた先に、この素晴らしいアルバムを完成させたのである。それは本当に感動的なことだ。10年前、もっと言えば数年前の時点で、2009年現在グリーンデイが世界で最も重要なロックバンドになっているなんて予想した人はほとんどいないだろう。実に感慨深い、考えさせられる事実だと思う。