無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

リアルよりリアリティ。

Relapse

Relapse

 単独の作品としては2005年のベスト盤『カーテンコール:ザ・ヒッツ』以来、約3年半ぶりとなるエミネムの新作。プロデュース業に専念すると言って第一線から退いていたこの間、彼が重度のドラッグ中毒で度重なる治療を行っていたというのは聞くとはなしにニュースとして耳に入っては来ていた。ドラッグ中毒、元妻キムとの再婚や再離婚、そして親友プルーフが射殺されるという悲しい事件。エミネムはシーンから身を引いていても、彼自身に起こる様々な出来事はゴシップ的な興味も含めてニュースを賑わしていた。そういう意味では音源は出さずともエミネムが全くの不在になることは無かったと思う。
 いつかは彼が復帰することは予想してはいたが、それがどのような形になるのか、彼の言葉が何を語るのか、それは正直分からなかった。しかしこのアルバムを聞いてブッ飛んでしまった。ここには、母親やキムに対する憎悪、自身のドラッグ中毒を赤裸々に書いたと思われるような内容が今まで以上にきわどい言葉で並んでいる。その他にもレイプや暴力的な内容の曲も多く、目を覆いたくなるようなストーリーの曲もある。アルバムのタイトルは『リラプス(再発)』である。中毒が再発するなどの意味を持つこの言葉にかけて、エミネムは自分がシーンに戻ってきたことを高らかに宣言する。その印象をより強くするために、あえて偽悪的にセンセーショナルな言葉を書いたのではと思うくらい、刺激的な内容のアルバムになっている。
 本作は、今は亡きプルーフに捧げられている。復帰した以上、エミネムはアーティストとしての自らの業から逃げずにそれを全うすることを決意しているのじゃないだろうか。それは再び、自分自身や周りの人間の人生を好奇の目に晒し、傷つけるかもしれないということである。しかしシーンからいない間も彼の行動は逐一衆目を集めていたのだから、結局は変わらないのである。だったら、口を閉ざさずに言いたいことを言った方がいい。このアルバムは、そんな彼のファイティングポーズがそのまま形になったようなアルバムだ。結局、エミネム以上にリアルに人生を戦っているアーティストは彼の不在の間には出てこなかった。ポップ・ミュージックの中で最も力を持つ物語というのは結局リアルなものでしかないということを、改めてエミネムは教えてくれる。