無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

真っ直ぐな理由。

ハピネス!

ハピネス!

 曽我部恵一BANDのオリジナル2作目。前作同様、シンプルでキラキラしたロックンロールナンバーが目白押し。おそらくはほぼ全て一発録りでレコーディングされたのであろうが、多少のミスや粗は置いといてテンションと勢いでカッコよければOK、的な割り切り方が清々しい。そんな中でも曽我部のソングライティングは非常に研ぎ澄まされている。日常生活を切り取った何気ない曲から、今の世界を生きる人間の内面、そして個人の人生の悩みや希望まで描くその手腕はさらに深く鋭くなっていくばかりだ。
 曽我部恵一のソロデビューシングル「ギター」の中に「戦争にはちょっと反対さ」という一節がある。本作のラストに収録されている「永い夜」には、それに対応するような一節がある。「戦争はたぶんなくならないんだろう」。数年前よりもさらにシニカルになった物言い。しかし、前者ではその後がアコースティックな弾き語りで「ギターを弾いている」だけだったのが、今は「僕は祈る 僕は祈るぜ」とシンプルなアンサンブルで真っ直ぐに叫ぶのだ。
 普通に生きていればうまくいかないこともあるし、暗い気分になることもある。年を取るに従って生きることはどんどん面倒になっていき、重い荷物は増えていく。そんなことは当たり前だ。曽我部だって、バンドのメンバーだって、聞き手だってそれは同じなのだ。しかし、自分たちの曲が流れている3分間はそういうことは忘れてしまおう。忘れたい。忘れさせたい。ソカバンの音はそんな真っ直ぐな気持ちの上に成り立っている。そして、そこにこそロックンロールのマジックは宿るのじゃないかと思う。前述の「永い夜」の疾走感溢れるコーラスはその最たるものだ。本作が出てから、まだ僕はソカバンのライブを見ていないけれど、この曲を曽我部が熱唱しているのを見たら速攻で泣いてしまう自信がある。