無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

嵐の前の静けさ。

Octahedron

Octahedron

 前作『ゴリアテの反乱』以来約1年半ぶりとなるマーズ・ヴォルタの5作目。前作のレコーディング時に、オマーの頭の中にはすでに本作の構想があったらしい。オマーもセドリックも本作を「アコースティック」と表しているが、その通り彼らにしては静謐でミドルテンポの曲が並んでいる。複雑に展開するそれほど長尺の曲もなく、全8曲で50分と、彼らのアルバムの中ではコンパクトにまとまっている作品である。
 セドリックのボーカルはほとんどの曲では声を張り上げてシャウトするような感じではなく、淡々と物語を綴る語り部のような印象だ。歌詞も壮絶なストーリーと感情がもつれ合って爆発するようなものではなく、暗黒の叙事詩とでも言うような佇まいである。異形のプログレを展開していたマーズ・ヴォルタのこれまでのアルバムとは異質の、地味なアルバムとも言える。全8曲で「八面体」というタイトルも、彼らにしてはやや安直という気がする。ただ、とは言ってもリラックスした雰囲気のアルバムではない。あくまでもサウンドの外面がそういう印象だと言うだけで、根本にあるオマーとセドリックの怒りや、音楽のモチベーションとなっている感情そのものは何も変わっていない。アウトプットの仕方として、今回こういう方法を選択したと言う話のようだ。
 今後のマーズ・ヴォルタの音楽がどういう方向に行くのか、それはオマーにしか分からない。ただ、サウンドのテクスチャーにしてもバンドの形態にしても、どういうやり方をも許容できる柔軟性がマーズ・ヴォルタのオリジナリティを支えていると思うので、何かひとつこれと言った方法論があるわけではないのだろう。本作を支配する緊張感はこの静けさの後に何が起こるのか分からないという不気味さでもある。