無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

全ては太陽みたいに輝く。

歩幅と太陽

歩幅と太陽

 イースタンユース、約1年9ヶ月ぶりの新作。決してメジャーな展開をしているバンドではないけれど、ここ10年以上1年半〜2年程度のスパンでアルバム(しかもどれも傑作)をコンスタントに発表し続けている安定さと勤勉さは素晴らしいと思う。本作も、例に漏れず傑作。
 1曲目「一切合切太陽みたいに輝く」に代表されるように、本作のイメージは明るく、動的で肯定的なものとなっている。「一切合切〜」で繰り返し歌われる何気ない日常のモチーフ(しかも、どれも美しいとは遠いイメージのもの)が太陽みたいに輝く、というフレーズは、ロックと言う音楽が本来的に持つ価値観の反転であり、目に見えるものには左右されねぇぞという、イースタンユースが持つパンク性の表出でもあろう。逆光に向かって歩くジャケット写真にしてもアルバムタイトルにしても、前を向いて力強く歩を進めるという決意に満ちているように思う。
 それとは逆に、上手くいかない生活と自身の不甲斐なさにネガティブになる曲もやはりあるわけだが、立ち止まって落ち込むのではなく、例えば「脱走兵の歌」のように積極的な逃避によってその状況を笑い飛ばそうとするのである。川島雄三監督の「幕末太陽傳」のような、死と隣り合わせの乾いたユーモア。そんな達観した見方ができるところが今のイースタンユースの強さなのではないかと言う気がする。
 周知の通り、吉野寿は本作発表後の9月26日、急性心筋梗塞で倒れた。発見が早く命に別状はないとのことだが、2009年内のライブ等スケジュールを全てキャンセルすることとなった。幸い、経過は良好で3月には復帰ツアーも予定されているが、死の淵を見た彼が今後どんな形で生を歌っていくのか、期待せずにはいられないのである。再会を心待ちにしたい。

生きてる事がこの世の全てだ。
生きてるものは全てが燃えている。
それ等は全て、太陽みたいに輝く。
公式HP内、吉野退院時コメントより抜粋)