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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

妄想の錬金術師。

The Resistance

The Resistance

 ミューズ、『ブラックホールズ・アンド・レヴェレイションズ』以来3年ぶりとなる5作目。本作はジョージ・オーウェル作の小説「1984年」をベースに全体を貫くストーリーが作られているという。その意味でコンセプトアルバムと言える内容になっている。全体的にも、ミューズのアルバムの中で最もプログレ的展開を見せる作品と言っていいと思う。「1984年」は簡単に言えばディストピア(反ユートピア)小説のひとつで、思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、市民の行動が当局によって監視されている近未来国家の恐怖を描いた作品である。マシュー・ベラミーのSF宇宙的に広がる誇大妄想により、それを現代社会に移し変え警鐘を鳴らす作品と取ることもできる。しかし、本作の核心はそのストーリー性そのものよりもそのテーマをどのようなサウンドで鳴らしたか、にあると思う。
 ロックもポップスもクラシックもオペラも中近東も、古今東西様々な要素が渾然一体となったミューズの音楽はここに来てさらにその独自性を高めている。というか、こんな音を鳴らす(鳴らせるorそもそも鳴らそうと思う)バンドはミューズしかいない。その中でも今作はよりクラシック色が強くなったアルバムと言え、「アイ・ビロング・トゥ・ユー」ではいきなりサン・サーンスのオペラが引用されているし、ラスト3曲の組曲はほぼフルオーケストラで作られたピアノ交響曲と言っていいものだ。マシューがいつかやってみたかったアイディアだそうだが、明らかにやりすぎであり、そしてこの過剰さこそがミューズなのだとも思う。
 さっきまでごりごりのギターを弾きまくっていたかと思ったら、次の瞬間には恍惚とオペラを歌いあげていたりするのだ。冷静に聞けば余りにも歪で不条理で、笑ってしまいそうな展開である。どの曲もいろいろな要素がごった煮になっているが、力技でミューズの曲として収めてしまったような爽快感があって聞いていて興奮してくる。とことんまで突き詰めて妄想した挙句「ナシ」を「アリ」に転換してしまう魔法のような錬金術こそ、ミューズの真骨頂だろう。メンバーによれば「ミューズの決定版、集大成」と言えるアルバムになったとのことだが、確かにそう思えるくらいの密度とカロリーが詰まったアルバムだと思う。
 歌っている内容がどうだろうと、どんなに素っ頓狂な音だろうと、力ずくで聞くものをねじ伏せてしまう圧倒的なサウンドの構築力は往年のクイーンに匹敵すると僕は思う。重要なのはこれで聞いた人間がポカーンとなるのではなく、スタジアムで数万人が熱狂できる壮大なポップネスを失っていないということだ。