無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

極北の音色。

paratroop(冬季限定盤)

paratroop(冬季限定盤)

 例えば。時間は真夜中か明け方。風も無くしんしんと雪が降っている。本当に音が無く、静か。今地球上で自分しか動いていないのではないかと言うような錯覚にとらわれることすらある。北海道の冬にはそういう場面がある。音が無いと言っても、本当の意味で無音と言うのは物理的にはありえない。静かである、と言う状況を表す擬音として「シーン」という言葉が用いられるが、どんなに静かでもその「シーン」は耳の奥で鳴っているのだ。sleepy.abの音は、北海道の冬、雪の風景で聞こえる「シーン」であると思う。
 本作からsleepy.abはメジャーに移籍したが、特に変わった部分は無く、彼ら独自の世界はきちんと維持されていると思う。今作は特に静と動のコントラストのつけ方が上手く、「ダイバー」や「メロウ」などメロディーが印象的なロマンティックな曲と、 「flee」「インソムニア」などのディストーションギターが前面に出る不穏で激し目の曲の対比が絶妙だ。しかし曲調がどうであれ、その美しさという点においてはアルバムを通して一貫している。
 札幌出身のバンドとして、音楽性は異なるがmonobrightサカナクションなど、最近注目されているバンドの先輩格としてユニークな世界を築いてきた彼ら。メジャー移籍の本作を機により多くのリスナーに聞かれることになるのだとしたら、それは素晴らしいことだと思う。僕は寝るときにiPodで音楽を聞くことが多いのだけど、ここ最近入眠時はこのアルバムを聞いている。非常に気持ちよく眠ることができる。