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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

スウィートホーム・札幌。

サカナクション SAKANAQUARIUM 2010 kikUUiki
■2010/05/08@Zepp Sapporo
 2008年の「ナイトフィッシングイズグッド」ツアーは札幌ペニーレーンワンマンだった。2009年の「シンシロ」ツアーではツアーファイナルの札幌ペニーレーン2Days、両日とも満員。そのときに、観客とのやり取りで「次はZepp!」という声がかかったのだけど、山口一郎は「いやいやいや無理っしょ」みたいな体で軽くいなしていた。それが、今回のツアーでは堂々のZepp Sapporoワンマン、しかもソールドアウトである。着実に、札幌に帰ってくるごとに一回り大きな姿を見せてくれているサカナクション。音楽的にはもちろん、その評価も彼らを取り巻く状況もものすごい勢いで拡大している。実際、ライヴも前回を上回るスケールと内容だった。
 ソールドアウトだけあって、フロアはぎゅうぎゅう。踊れるのか?と思うくらい隣の人との距離が近い。開演前のステージには半透明のカーテンが下りていて、中の様子ははっきりと分からないようになっていた。客殿が消え、逆行のライトの中カーテンにメンバーのシルエットが浮かび上がる。左右で太鼓のリズムが鳴り響く。岩寺と草刈姉さんが叩いていた模様。この辺の演出意図は正直よくわからない部分もあったが、派手にライヴは始まった。バンドの演奏としては「明日から」でスタート。昨年のツアーまでとはメンバーの立ち位置が変わり、山口一郎を中心に左右逆転した形で女性陣がステージに向かって右側になった。序盤の流れは地味ながらかなりアゲアゲモードで、会場は一気に汗が吹き出るような熱気に包まれた。この最初のシークエンスで「セントレイ」を惜しげもなくやってしまうあたり、後半の構成への自信が伺える。今までもサカナクションはこういうことをやっていて、「ナイトフィッシングツアー」の時はクライマックスで「ナイトフィッシングイズグッド」を持ってきていたのが、「シンシロツアー」では序盤であっさりと演奏していた。ライヴという場でも過去の自分たちを確実に凌駕するという自信と結果を示してきたのである。「YES- NO」のイントロがMCのタイミングで出てしまうなど、この日は全てがスムーズに行ったわけではないが、ある程度のトラブルもその場でネタにしたり軽くいなせる対応力を既にサカナクションは持っている。最初にライヴを見たときから僕は彼らのことをライヴバンドだ、と言ってきたが、数々のツアーやフェス、対バンの中でもまれ、叩き上げてきた強さが垣間見えた。つまりは安定感である。
 メンバーは久々の札幌ということで楽しんでいるように見えた。山口もくり返し、「ここがホームだと思う」ということを言っていた。そんな彼らを観客も温かく迎えている。アットホームな雰囲気を通奏低音として、ライヴは進んでいく。「YES-NO」の後、中盤は『kikUUiki』中でも個人的にライヴで見るのが楽しみだったナンバーが続く。「アンダー」はおそらく今の山口一郎の素の心情に最も近い曲ではないかと思っているのだが、アルバムと同様、中盤でオーディエンスの集中力をグイっと引き寄せるような緊張感を放っていた。「シーラカンスと僕」もライヴではアルバムで聞く以上に映える気がする。サカナクションのツアーセットリストには必ずインストが1曲入るのだが、今回は『kikUUiki』の初回限定で収録されたダブ・ナンバー「Paradise of Sunny」だった。「Sunny」というのは彼らのミキサーを担当している人のことだそうだが、このライヴでもPAを担当していた(山口に紹介され、大きな拍手を受けていた)。
 ここから怒濤の後半は必殺ナンバーが目白押しのアグレッシブな展開。セットリスト見るだけでどれだけ盛り上がったか想像できるというもの。その最後の最後、ピークタイムに「アルクアラウンド」を持ってくるライヴ巧者ぶり。フォーキーで内政的な「壁」を挟み、今回のアルバム、そしてツアーのテーマ曲とも言える「目が明く藍色」がラストを飾る。壮大なアレンジの曲だが、きっちりとライヴ仕様に仕上げてきている。本編は一瞬も緩むところがないくらい、考え抜かれた構成でものすごい密度だった(ちょっときっちりしすぎてると思うくらい)。山口一郎は基本、非常に論理的に音楽や自分たちの立ち位置を考え、理解し、周囲のリアクションも想定した上で次の一手をどう打つかを考えるアーティストだと思う。それが頭でっかちにならないのはダンスミュージックのテクスチャを巧みに取り入れていることと、バンドとしてのグルーヴ感が非常に優れているからだと思う。草刈姉さんのベースは相変わらずサウンドの骨格を成す存在感だったが、江島のドラムがまた一段と良くなっていた。リズム隊の充実が全体のサウンドのビルドアップにもつながっているという気がする。
 アンコールは非常にリラックスした雰囲気で、スタッフによるグッズ紹介やメンバー紹介でほんわかした空気になる。山口が「やきそば弁当」を北海道限定商品だということを知らなかったという驚愕の事実が判明したりもした。「潮」と、彼らの活動スタートのきっかけともなった「三日月サンセット」、そして「ナイトフィッシングイズグッド」でアンコール終了。しかし、拍手は鳴り止まない。ダブルアンコールに応えてくれた。 サカナクションアンダーグラウンドとポップの境目で、両者を繋げ、シーンを変革するという壮大な理想を持っているバンドだ。『kikUUiki』というアルバムはその一歩であり、彼らが東京で音楽を作る決意を示したアルバムだったと思う。MCの中で、山口はサカナクションの活動はたくさんの人に支えられていることを紹介し、感謝していた。地元だけに、メンバーの家族や関係者も多く来ていたようだ。そんな中、彼は力強く「俺はやるよ」と宣言した。それはポーズでも勢いでもなく、真摯な決意だったと思う。全力で後押しし、見守りたい。

■SET LIST
1.21.1(SE)
2.明日から
3.表参道26時
4.セントレイ
5.アドベンチャー
6.Klee
7.YES NO
8.アンダー
9.シーラカンスと僕
10.Paradise of Sunny
11.ライトダンス
12.インナーワールド
13.サンプル
14.ネイティブダンサー
15.アルクアラウンド
16.壁
17.目が明く藍色
<アンコール1>
18.潮
19.三日月サンセット
20.ナイトフィッシングイズグッド
<アンコール2>
21.白波トップウォーター