無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

ある意味シングル・ベスト。

Vol. 1-a-Z

Vol. 1-a-Z

 アッシュ、3年ぶりの新作は過去作とはちょっと趣向が違う。彼らは前作『トワイライト・オブ・ジ・イノセンツ』とそれに伴うツアーの後、「もうこの先アルバムは作らない」というような発言をした。それは活動休止や解散を意味するものではなく、活動とリリースの形態を全く変えてしまうと言うことだった。
 タイトルにある「A-Z」とは、彼らが現在続けているシングルシリーズのことで、2週おきに1年間、26曲のシングルを立て続けにリリースすると言うものだ。26曲それぞれアルファベットを冠し、AからZまで継続するという形になっている。それはCDではなく配信であり、レコード会社の手を通さない、全くのDIYでのリリースとなっている。今回のアルバムは「vol.1」と題されている通り、その前半の13曲にボーナストラックを加え、アルバムとしてまとめたものである。
 これにはいろいろな意図があるだろう。旧態依然としたレコード会社や音楽業界が衰退傾向にあること、ダウンロードによる配信リリースに対するハードルが(送り手側も受け手側も)低くなってきたこと、デジタルプレーヤーの普及に伴い、アルバム単位より曲単位での聞かれ方が増えてきたこと、等々。プラス、彼らの音楽的嗜好がシンクロした結果、アルバムという形のでリリースよりも、曲単位でシングルを連発することに興味が移って行ったのだと推測する。
 そもそもアッシュの曲はアルバムの中の1曲と言えどもとことんキャッチーであり、ティム・ウィーラーという人のソングライターとしての才能は基本シングルライクであるといっていいと思う。今回のシリーズはそれも自覚した上でのチャレンジなのだろう。ボーナストラックは若干、曲のバラツキもあるが、シリーズのシングルについてはどれも文句なしの完成度。2001年の傑作『フリー・オール・エンジェルズ』を髣髴させるような疾走ギターポップあり、バラードあり、エレクトロ風味のポップスあり、曲調も様々だが、キャッチーであるという意味では一貫している。ただ、やはり単発で聞かれることを前提に作られた曲たちであるので、こうして1枚にまとめてしまうと逆に濃すぎるというか、流れのようなものが見えないという点は仕方がない。シャッフルして聞くのが正しい接し方かもしれない。後半も楽しみだ。