無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO(3)〜さよなら夏の日

■2010/08/14@石狩湾新港樽川埠頭横野外ステージ
 この日も天気がいい。テントが程よくサウナ状態となり、汗だくで起床。洗顔と歯磨きを済ませ、奥さんの諸々お手入れを待ち、朝食へ。ツイッターのフォロワーさんから教えていただいたベーコンエッグロールをいただく。何これすげえ美味い。朝一発目としてはちょっとボリュームありすぎだが、熱々のピザ生地とチーズの香り、そして半熟の目玉焼きが完璧なハーモニー。これが今年一番のフェス飯でした。今回のRSRツイッターを本格的にやり始めて初のフェスだったのだけど、いろいろ他の人とのコミュニケーションを含め、面白かった。他のステージにいる人のつぶやきを見るだけでも楽しいし。あと、自分のつぶやきを見返してこうしたレポに利用したりもできる。

 夜のうちに乾いたのか、地面の状態は少し良くなった。サンステージ前のメイン通路はほぼ、全面歩ける程度にはなっていた。ただ、まだアーステント側はかなりひどい状態だった。フェス期間中に完全回復は望めないような気がした。午前中からかなり暑く、水分補給が欠かせない。ので、ビール飲みたいけれども水分を優先して取るようにしていた。今年は飲み食いに例年ほどお金を使わなかったのだけど、酒を飲む量が減ったのが大きかったかも。
 ちょうど永ちゃんが始まるところだったのでスタンディング後方でまったり見る。RSRには2007年以来の登場となるYAZAWA。登場からとにかく、いちいちカッコいい。ポージングもビシビシ決まるし、マイクスタンド回しも完璧。とにかく、何かひとつ動くたびに歓声が上がる。これだけ空間を支配できるアーティストはなかなかいない。ステージを降りて最前列の客と触れ合うサービスもあり。なかなかテンション高め。前回は聞けなかった「時間よ止まれ」が生で聞けたのにはちょっと感動。でも意外とリアクションなかったな。「罪なやつさ〜」でウオオオオオーって来なきゃダメだよ、みんな!恒例のタオル投げも後ろから見ると壮観。当然、僕もやりました。ただ、短かったなあ。30分強で終わったんじゃないだろうか。サンステージは1アクト1時間のスケジュールで組まれていたので、次のエレカシまでえらい時間が空くことになった。暑かったのかな、永ちゃん。彼の言うとおり、水分と塩を取りましょう。

 というわけで一旦ステージを離れ、頃合いを見てエレカシへ。このあたりが一番暑い時間帯で、ステージ前で待っているのがきつい。エレカシ。「俺たちの明日」以降のエレカシ、ステージで蔦谷好位置ヒラマミキオが参加して6人編成になって以降のエレカシはライヴにおける好不調の波がなくなった。いつでも必ず平均点以上のものを見せてくれる安定感が出てきたのだ。その分かつてのスリリングさが失われるという部分もあったわけだが、ライブバンドとしての完成度はキャリアハイを更新し続けていたと言っていい。そんな安定感をこの日も期待していたのだけど、ちょっと様相が違った。「今宵の月」「悲しみの果て」など代表曲を惜しげもなく出す反面、「俺の道」というちょっとセールス的に落ちていた時代の曲(しかもかなり歪な傑作)を演奏したりする。中盤はその際たるもので、ファーストアルバムからおなじみの「デーデ」に続き、なんと「珍奇男」を演奏した。89年のサード『浮世の夢』に収録された初期の名作。7月の野音でもやってはいたが、コアなファンが集まる野音とフェスでは意味合いが違う。最近ではあまり見られない、どっかイカれたような目つきで熱唱する宮本。最近のポップな曲にまぎれて、獰猛な破壊者としての宮本が時折顔を見せるのである。このゴツゴツした感覚は最近のエレカシのライブではなかなか味わえなかったものだ。「俺たちの明日」以降ファンになった中には「珍奇男」でポカーンとした人もいるのではないだろうか。極端に振れ幅の広いセットリストだった。新曲は現在の路線に収まるようなものではあったが、久々にロックバンドとしてのヒリヒリする感覚をエレカシから感じた気がする。過去の例を見ると、バンドとしてのモードチェンジする過渡期になると彼らはこういうライブをすることがある。となると、次を期待せざるを得なくなるのだ。

エレファントカシマシ SET LIST
1.今宵の月のように
2.俺の道
3.悲しみの果て
4.幸せよこの指にとまれ
5.風に吹かれて
6.So many people
7.デーデ
8.珍奇男
9.リッスントゥザミュージック
10.俺たちの記憶(新曲)
11.(新曲)
12.ファイティングマン
13.ガストロンジャー
14.俺たちの明日

 そのままサンステージに残り、山下達郎待ち。客が入れ替わり、だいぶ年齢層が高くなる。山下達郎、フェス初登場である。野外でのライブも29年ぶりという。当時は当然、フェスなどという文化は日本にはない。嬉しいのはフェスに出るとなったときに、「フェス経験のある周囲のミュージシャンに聞いたところ全員ライジングサンがいいと言ったので決めた」と、彼が自身のラジオ番組で語ったということだ。ライジングサンを愛し、山下達郎を尊敬する僕のような人間にとってこのステージが特別な体験になることは約束されていたようなものである。期待は膨らむ一方で、サウンドチェックで達郎のギターがカッティングされるだけで興奮を抑えきれない。
 ステージに現れたのは前回のツアーメンバーと同じミュージシャン達。佐橋佳幸(g)、小笠原拓海(dr)、伊藤広規(b)、難波弘之(key)、柴田俊文(key)、土岐英史(sax)、国分友里恵(cho)、佐々木久美(cho)、三谷泰弘(cho)。現在進行中のツアーもこのメンバーということだ。今回の石狩の後、週明けに札幌での2公演が予定されている。フェス出演とツアー日程のどちらが先に決まったのかは分からないが、北海道でこれだけの短期間に山下達郎のステージを3回見れる機会などそうそうあるものではない。いつもの黒ジーンズに赤いシャツを着た達郎が現れるとどよめきと歓声が響き渡る。挨拶代わりに「Loveland,Island」のコーラスを演奏した後、鳴らされたのは「Sparkle」のイントロ。日本の音楽史上に間違いなく残る印象的なギターカッティング。日が傾きかけた夏の午後に完璧にフィットする圧倒的な空気感。ツイッターでも書いたし、以前もブログに書いた気もするが、何度でも書こう。この「Sparkle」のイントロは1981年のアルバム『FOR YOU』の冒頭と今でもライブで全く同じ音が出る。単に古びていないとかではなく、音自体が全く同じなのだ。カッティングのギターだけではなく、キーボードもベースも、驚くべきことに達郎氏の声自体もである。何でそんなことが可能なのか、という問いに達郎氏がこう応えたのを見たことがある。「当時レコードを録音した時と同じミュージシャンが同じ楽器を使っているのだから同じ音が出るのは当然」と。それが言えるのはあなたが特別だからだよ、という話なんだけど、山下達郎という人の音楽がいかにタイムレスなものかということを示す最も適した例の一つであると思う。「DONUT SONG」では会場中が手拍子でひとつになり、「僕らの夏の夢」で北海道の夏の終わりに少ししんみりする。
 現在のツアーはシュガーベイブから数えてデビュー35周年記念ということで、当事の曲も演奏。「WINDY LADY」から「砂の女」という流れは後期シュガーベイブのライヴでも定番で、1976年3月31日荻窪ロフトでの解散ライヴでもこの2曲の流れで演奏されている(音源持ってます)。「WINDY LADY」で一度コーラス隊は引っ込んだのだけど、「アトムの子」で再登場。あれ、コーラスが4人になっている?と思うと、麦藁帽子をかぶった竹内まりやがひっそりと立っている!石狩→札幌2Days→函館。はい、北海道家族旅行ですありがとうございました。これは素晴らしいハプニング。「RIDE ON TIME」「Loveland, Island」と代表曲を繰り出した後、メンバー紹介で竹内まりやを紹介すると大歓声。ここで初めて気づいた人も多かったかも。最後はハンドマイクで「さよなら夏の日」を熱唱。夕暮れ、この曲を歌われたらセンチメンタル×20倍。しかも、北海道はライジングサンが終わると一気に秋の気配になる。「一番素敵な季節がもうすぐ終わる」というのは、当然「夏」のことであり、この場に限っては「フェスのこの楽しい時間」のことでもある。泣きながら聞いている人達の姿がスクリーンにたくさん映る。これは仕方がない。ある意味反則だもの。時間的制約があるフェスでは、達郎氏の軽妙なMCを披露する機会はあまりなかったが、1時間以上に及ぶぎっちりと凝縮されたステージが見応え、聞き応え十分だった。贔屓目無しに言うが、今の達郎氏の声や演奏そのものはまだまだ全盛期というキレと充実度だと思っている。それを体験できた若いロックファンの人達はこの幸運を噛みしめてほしい。「呼んでくれたらまた出たいと思います」と達郎氏は言った。ぜひ、お願いします。永ちゃんにしろ山下達郎にしろ、過去の例なら井上陽水とか、そういう人達がロックフェスに出る意義というのはとても大きいと思う。個人的にも、野外で達郎を聞くという初めての経験で、舞台装置が揃った時の破壊力というものを再認識した。素晴らしい時間だった。

山下達郎 SET LIST
1.Loveland, Island(サビ)
2.SPARKLE
3.DAY DREAM
4.DONUT SONG
5.僕らの夏の夢
6.WINDY LADY
7.砂の女
8.BOMBER
9.アトムの子(guest:竹内まりや
10.RIDE ON TIME(guest:竹内まりや
11.Loveland, Island(guest:竹内まりや
12.さよなら夏の日

 完璧な演奏、完璧な時間帯、完璧なロケーション。自分にとって大切な場所で、最も尊敬するアーティストが演奏した。それだけで、今回のベストアクトとなるには十分すぎる理由なのだけど、それ以上の感動をもらった気がする。改めて、最敬礼。