無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

2/47の純情な感情。

SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー★傷だらけのライム
■監督:入江悠 出演:山田真歩、安藤サクラ、桜井ふみ、駒木根隆介、水澤紳吾ほか
 地方都市でのイケてないラッパーの悲哀を愛とユーモアたっぷりに描いた青春映画「SR サイタマノラッパー」の続編。監督は前作と同じく入江悠で、前作で主役だったMC IKKUとMC TOMは今回は脇役として、しかしストーリー上重要な役を務めることになる。今回の舞台は群馬県であり、主役は女子ラッパーとなった。
 MC IKKUとMC TOMは前作で病死してしまったDJ、タケダ先輩がかつて伝説のライブを行ったという場所を探しに群馬県を訪れる。そこで出会ったのは、その伝説のライブを目撃し、高校でラップグループを結成したアユムだった。彼らとの出会いをきっかけにアユムはかつての仲間に声をかけ、ライブの実現に奔走するのだが・・・。というストーリー。基本的なプロットの流れは前作を踏襲している。ラップを志すも、田舎ゆえ全く理解が得られず浮きまくる彼ら彼女らの姿は面白く、しかし哀しい。主役であるアユムの実家はこんにゃく屋で、彼女はそこで家の仕事を手伝っている。何も刺激のない日常の中、もう一度ライブをやりたいという熱意は何物にも変えがたく彼女の生活を彩るハズなのだが、そこに待ち受けるのは辛い現実ばかり。「こんな田舎で」「妙齢の女子が」「ラップなどにかまける」という、厳しい世間の目。そこで現実の壁に跳ね返される彼女らの姿はあまりに痛々しい。
 入江監督は前作でも多用したワンシーンワンカット長回しで、その痛々しさをこれでもかと浮き彫りにする。今回白眉なのは市民プールでの水着を着てのラップシーン。カメラをあえて遠くに配置し、「ああ、なんかやってるな」的なプール客の目線で、ラップする彼女らを徹底的に冷ややかに「風景」にしてしまう。フルコーラスをワンカットで撮り切ってしまうのだけど、このシーンは途中から「わかったから!もうやめてあげて!」というくらい居たたまれなくなってしまう。だからこそ笑えるし、哀しい。このシリーズの本質をあらわにしたような名シーンだと思う。
 同じく名シーンは終盤のクライマックス、アユムが仲間やIKKU&TOMと共にラップするシーンである。母親の法事で、聞いているのは親戚というおよそラップとはかけ離れたシチュエーションで、喪服を着た20代後半女子が必死でラップするのである。そこには音楽もなく、ただただ自分の思いのたけをぶつけるのみ。前作のクライマックスもIKKUとTOMがバイト先の飲み屋でラップするという素晴らしいシーンだったが、今作もそれに匹敵する、いや、それ以上の名シーンと言っていいと思う。IKKUもアユムも、行き着くところまでとことん追い込まれた挙句、ようやく何も飾らない自分の言葉を見つけるのである。それこそが真のラップであり、真の表現なのだ。ラップでなくとも、何か趣味を持ち、大人になっても続けている人はこの映画を見て感じるものがあると思う。僕はこの映画を見て死んでも合唱続けようと思った。
 入江監督はこのシリーズをプログラムピクチャーとして47都道府県回るシリーズにしようという壮大な野望を持っているらしい。本作の最後で次回作の予告が出てくるが、次は栃木のようだ。インディーの小規模映画なのに、そんなことを言う人はまずいない。なんとか、がんばってほしい。少なくとも、行けるところまでこのシリーズを続けてほしいと思う。勘違いしないでほしいが、この映画はラップやラッパーをバカにしているわけではない。夢を持ち、邁進するも現実に阻まれ挫折してしまう数多の若者に、愛とユーモアでもってエールを送る映画だと思う。ラップというのは、世間からの見られ方や受け入れられ方として、その挫折やギャップを描くのに非常に優れたモチーフだと思う。これが普通にバンドだと、ここまでイケてない感や痛々しさは出ないと思う。そういう意味でも、絶妙なシリーズ。ライムスター宇多丸氏が前作を2009年ベストの一作に選んだのはものすごく良くわかる。興味ある人はぜひ前作も。

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