無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

新章は愛に満ちて。

TO THE LOVELESS(初回生産限定盤)(DVD付)

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 ブンブンサテライツ、約2年半ぶりのオリジナルアルバム。ずいぶん時間が空いたように思うが、今年の頭に2枚組ベストをリリースしているしそのベストも全曲リマスタリングされるという手の込んだものだったのであまり空白は感じていなかった。フェスでも見ていたし。
 前作『EXPOSED』の感想で、僕は「この先どうなってしまうんだろう」と言うようなことを書いた。つまりは『Full Of Elevating Pleasures』、『ON』、『EXPOSED』と続いた3部作で追求してきたキャッチーなリフとメロディーを持つコンパクトな歌モノとしてのサウンドはほぼ完成し、行き着くところまで行ってしまったのではないかという気がしていたのだ。本人たちもそう思っていたのかどうかは知らないが、今作は前3作とは大きくアプローチを変えた意欲作となっている。キャッチーなリフ主体だった楽曲は幾層にも折り重ねられた分厚いビートによる奥行きのあるものになった。 メロディーはこれまで以上にエモーショナルになり、曲自体も非常に長尺なものが増えた。40〜50分というサイズだった前3部作に比べ、今作は75分という長さでCDの収録ギリギリまで音を詰め込んでいる。この変化はつまり、出音のインパクトで耳をガッと引きつけることよりも、何度も聞き込んで音楽の底に触れてほしい、という彼らの思いがもたらしたものだと思う。もちろん本作でも強靭なビートは健在だが、目の前にあるものをなぎ倒していくような凶暴性は薄れ、むしろ聞くものを包み込むような包容力が感じられる。
 リリース後のツアーでも感じたことだが、全体に人間味が強く出て非常にエモーショナルなアルバムになっている。クライマックスに配置された壮大なバラード「STAY」は、ブンブン史上最も美しいメロディーが出し惜しみなく展開される珠玉の1曲。「BACK ON MY FEET」も「DRAIN」も「LOCK IT OUT」も「UNDERTAKER」も、この曲をいかに美しく響かせるかのための前フリだったようにすら思う。そう、今回はアルバム全体の流れというものが強く存在している。プログレ的とも言える作りになっていると思う。1曲1曲をダウンロードでき、アルバムというものの存在意義が問い直される中、彼らがこうしたアルバムを作ったのは意識的なことでもあるのではないかと思う。
 ただ、こうした変化が本作で全ていい方向に出ているわけではない。やはりアルバムとしては長尺だし、「STAY」をピークに以降はやや緊張感が薄れ、冗長な感じが無いでもない。新しい道を提示し、再び歩き出したという過渡期のアルバムだと思う。それでもブンブンがこういう方向に進みだしたのは意味のあることだと思う。ダンス・テクノ系のビートを用いたロックと言うものがいかに成熟し、優れたメッセージを内包することができるか。彼らのこのアプローチはひとつのモデルケースになり得るものだと思う。