逃げちゃダメだ―映画『BECK』感想。
■BECK
■監督:堤幸彦 出演:水嶋ヒロ、佐藤健、桐谷健太、向井理他
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2011/02/02
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キャストは概ねイメージに沿っており、演奏シーンはたまにあれ?と思うところもあったけど、平君役の向井理、千葉役の桐谷健治をはじめ、バンドメンバーもがんばっていたと思う。メインキャストでは一番心配していたのが竜介役の水嶋ヒロだったのだけど、これも下がりきったハードルをなんとか超えてはくれた。日本語よりも英語での演技の方がまだ見ていられると分かったのは収穫だと思います。同じく英語が話せる真帆役の忽那汐里は個人的にはもう少し大人っぽい色気が感じられるとよかった。カンニング竹山やダイブリの二人、レオン・サイクス役の方(スパイク・リーの弟さんだそうで)など、見た目で原作そのまま的なキャストを持ってきたのはまあまあ上手く行ってたと思う。少なくともリアリティを損なうようなものではなかったかと。ダイブリの二人にはもう少しロックスターのオーラ的なものが感じられるとよかったんだけど。(その辺にいるただの外人っぽ過ぎ)
音楽をテーマにしている映画である以上、問題はその音楽。BECKというバンドが徐々に人気を得ていくと言う過程にリアリティを持たせるためには、それだけの音楽を実際に劇中で鳴らす必要がある。オリジナル曲に関しては、厳選に厳選を重ねたようで、一定のレベルはクリアしていたと思う(ただ、あまりにもレッチリやレイジやオアシスの影響が感じられすぎて、アマチュアバンドが実際にこんな曲をやっていたら絶対にあそこまで注目されないとは思うんだけど)。そこは最初からそんなに期待をしていなかったのでこんなものかなと。問題はコユキの歌。ここをどうクリアするか。しかし、残念ながらこの映画はそこから逃げてしまった。これだけはどうしても許せなかった。音をテーマにした映画で、音を放棄してしまってどうする?
BECKのオリジナル曲がどんなに素晴らしい曲でも、コユキの歌声がどんなにすごくても、「原作の方がもっとすごいはずだ」という意見は絶対に出てくるだろう。100%万人を満足させることはできないだろう。でも、オリジナル曲は作って、劇中で流してるわけでしょう。なのになぜ、コユキの声だけ無音?プログラムによると、このコユキの声を出さないと言うのは原作者であるハロルド作石氏の提案だったそうだけど、漫画であればそれはいいと思う。元々音の無い漫画という表現の中で原作はやっていたわけだから。しかし、映画の中で、せっかく映画なのに、漫画的表現にしてしまうと言うのは、僕にはやはり映像作家として逃げたとしか思えなかった。100歩譲って、最初にコユキが真帆にダイブリの曲を聞かせるシーンくらいならああいう表現でもいいかもしれない。でも、最後のライブシーンはいただけない。バンドの音が鳴ってるのにボーカルだけ聞こえないとか、明らかに違和感バリバリでしょう。「マイク入ってねーぞ?」みたいな。それを見てみんな感動してるとか、逆にちょっと冷めてしまった。あそこだけはリアリティのかけらもない、御伽噺になってしまった。もしかしたら作り手はこれをリアルなロックバンド映画ではなく、ファンタジーとして作っていたのかもしれない。それなら分からないでもないけれど、残念ではある。原作ファンが原作に感じていたのは同時代を生きるロックファンとしてのリアリティだと思うので。
細かい点を言えば、ダイブリのライブで真帆がビデオ撮ってるのは普通につまみ出されるレベルじゃね?とか、出演者の彼女とはいえ、フェスの楽屋になんでバックステージパスもない普通の参加者が入って来れるの?とかツッコミどころも多い。ただ、そうは言っても、若者がロックバンド作って大きなステージに、というロックの浪漫を感じさせるという点ではそこそこできてしまっているのがまたいやらしい。青春映画としては一定のクオリティは持っていると思う。コユキの歌はアレだったけど、ラスト、ステージ上で円陣組むところは正直ぐっと来た。フジロックのステージをそのまま使ったフェス描写は確かにロックファンが見ても納得できるものだったと思う。やはり、あのコユキの歌が「アレ」なことで大きく意見が分かれる映画だと思う。それを肴にああだこうだ知り合いと酒でも飲みつつロックや原作について語る、のにはいい映画だと思う。