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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

誰も触れない、二人だけの国。

Further

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 ベスト盤『ブラザーフッド』のリリースをはさみ、オリジナルとしては3年ぶりとなるケミカル・ブラザーズの7作目。『プッシュ・ザ・ボタン』(05年)、『ウィー・アー・ザ・ナイト』(07年)の近2作はボーカリストをフィーチャーした曲が多く、ニュー・レイヴやダンス・ロックのゴッドファーザーとしての自身の存在感を見せ付けるようなアルバムになっていたと思う。が、本作はフォーチャリングやコラボレーションは皆無と言って良く、全編クラブ・ミュージック、というかライヴ仕様。このアルバムをそのままかければすなわちケミカルのライヴになる、というくらいのアルバムになっている。
 ほとんど途切れることなく連なっていく全8曲は重く激しいビートよりもむしろ上モノのスペイシーな広がりとキラキラしたサイケデリアが最大の魅力。約12分に及ぶ「Escape Velocity」のスピード感やクライマックスとも言える「Swoon」の全能感は至福の瞬間と言えるだろう。大音量で聞けば間違いなくトリップできる。フロアを縦横無尽に駆け巡るレーザー光線が目に浮かぶようだ。
 こうしたタイプの音楽で、彼らほど長い期間第一線で活躍してきたアーティストは皆無だろう。それは彼らが常にDJなりライヴなりでフロアのオーディエンスに向けて音を発してきたことの証でもある。前2作では様々なミュージシャンとのコラボレートにより、オリジネイターとしてのプライドを保とうとしてきたわけだが、本作ではそうした儀式すら必要なかったのだと思う。別格の存在としてのケミカル・ブラザーズを見事に示して見せたアルバムと言えると思う。『サレンダー』(99年)を思わせるようなサイケデリアを満喫できた。