無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

頭の中の宇宙。

ANOMALY

ANOMALY

 the HIATUS、1年ぶりのセカンドアルバム。細美武士という人の頭の中にある音を具現化するための装置としての性能は前作以上にその精度を上げているし、同時にロックバンドとしての求心力も高まっているように見える。優れた作品を作り上げるためにバンド内の緊張が高まり、空中分解してしまうというのはままある話だが、逆はあまり聞いたことがない。偶然なのか必然なのか、本当に細美はいいメンバーに恵まれていると思う。
 堀江博久のピアノが流麗な印象を残す前作に比べ、サウンドの幅は格段に広がっている。それはあれもやりたいこれもやりたい、という欲求によるものではなく、「だったらアレもできる、これもできる」という、前述の細美の頭の中にある音をいかに具現化するかという話に繋がっていくのだと思う。前作はまだ、細美の鳴らしたかった音の一部分だったということなのだろう。シングル「Insomnia」でもその萌芽は見えていたが、同シングルに収録されている「Antibiotic」や「Walking Like a Man」、「My Own Worst Enemy」などで聞ける静かながら緊張感のあるアンサンブル、 自由に構築されていく音楽の美しさはものすごく魅力的だと思う。
 一人の人間の内面を覗きこんで行くという行為は一般的にはあまり気持ちのいいものではないのかもしれない。しかし、このアルバムはそれが同時に聞き手が自分の中を覗き込む行為として描いているし、最後には非常にポップな出口を用意してくれている。ヒリヒリとしたテンションで人間と世界を描き、それをエンターテインメントとして成立させてしまうというのはすごいことだと思う。要するにそれはもうレディオヘッドとかU2とか、そういうバンドがやっていることの域である。全11曲中9曲が英語詞で書かれているためか、マーケティング上本作は洋楽として扱われているらしい。洋楽邦楽というくくりは正直あまり考えたくないし意味が無いとも思うのだけど、このアルバムについて言えば、確かに日本という国の中だけで完結できないスケールを持っていると思う。