無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

魂は燃えているか。

佐野元春&THE COYOTE BAND 【佐野元春30周年Anniversary Tour Part2】『ソウル・ボーイへの伝言』
■2010/11/05@札幌ペニーレーン24
 1980年3月にシングル「アンジェリーナ」でデビューしてから今年で30周年となる佐野元春。そのアニバーサリーイヤーを自ら祝福するべく、佐野元春は3種類のライブツアーを組んでいる。Part.Iは8月に行われた『in motion 2010 僕が旅に出る理由』。これはスポークンワーズ・セッションで行われたもので、バックは井上鑑山木秀夫など一流のセッションミュージシャンが勤め、ジャズを基調とした中に元春のスポークンワードが乗るものだった。Part.IIがこの『ソウル・ボーイへの伝言』である。これは『COYOTE』をレコーディングした時のバンドでライブハウスを回るクラブ・サーキットツアーになる。メンバーは深沼元昭(g)、高桑圭(b)、小松シゲル(Dr)、渡辺シュンスケ(Key)。腕利きばかりだが、年齢は元春と一回り以上違う、つまりは僕と同世代のミュージシャンたちだ。この若いメンバーとライブハウスを回る今回のツアー。ペニーレーンクラスのハコでで佐野元春が見られる機会など、この先そうはないだろう。
 昨年のツアーでも思ったが、非常にタイトな演奏をするバンドなので、元春も若々しくなったように見える。元々老け込んでいるところは全くない人だが、演奏に負けじとアクションも派手になるのだ。前半は『COYOTE』からのナンバーが並び、最新作での元春のモードをダイジェストで追体験するようなイメージ。アルバムと同じ流れの冒頭3曲で一気に『COYOTE』の世界に没入する。「君が気高い孤独なら」はいつ聞いても、21世紀の佐野元春のテーマソングとも言うべき優れたビートニクス・ナンバーだ。「世界は誰の為に」のあと、一度バンドが引っ込み第2部のスタート。元春は現在、このCOYOTE BANDとともにセルフ・カバー・アルバムを制作中だそうで、来年初頭に発売する予定とのこと。そこから「ジュジュ」「月と専制君主」「レイン・ガール」を演奏。どの曲も大幅にリアレンジされており、特に「月と専制君主」はメロディーラインも大きく変わっていた。そして今の時代にも―というか、今の時代にこそ―当てはまるメッセージが込められていることに改めて気づかされる。
 後半はヒットナンバーの連続で一気にたたみかける。「約束の橋」に続き、「COYOTE BANDの彼らが多感な少年時代に、この曲を聞いていたんだ」と「ヤングブラッズ」を演奏。世代的に自分もドンピシャなので、泣きそうなほど興奮した。目の前10mもない距離で元春がこれらのヒット曲を熱唱するのである。盛り上がらないわけがない。「ダウンタウン・ボーイ」で本編終了。アンコールは元春と深沼によるアコースティックセットで始まった。ツアータイトルにもなっている「ヤァ!ソウルボーイ」、『THE BARN』から「ヤング・フォーエヴァー」の2曲を演奏。再度退場するが、アンコールの拍手は全く鳴り止まない。元春は、「まだこの曲には少し早い季節なんだけど」と言い、「クリスマス・タイム・イン・ブルー」を演奏。大歓声の中、バンドと打ち合わせし、「アンジェリーナ」でアンコールは終了した。
 終演のアナウンスが流れ、係員が退場を促しても3度目のアンコールの拍手がしばらく鳴り止まなかった。ライブハウスならではの熱い空気がこの日のライブには一貫して流れていた。元春も若々しかったが、観客も熱い。この日のセットでは『COYOTE』からの曲以外では、テーマとして「若さ」「青春」的な曲が選ばれているような気がした。若いバンドとともに、自分の中の青い炎をもう一度燃え上がらせようとしているのかもしれないと思った。少なくとも、30周年を区切りに落ち着こうという気は全く無いことだけは確かだ。年明け、アニバーサリー・ツアーPart.IIIでは90年代から元春を支え続けているTHE HOBO KING BANDとホールツアーを回る。今回のツアーとはまた違う側面から元春の30年間を総括し、また未来への道を示すツアーになるはずだ。 さすがにライヴ後半は声が厳しそうで、その辺に衰えを感じなくはないのだけど、ソウルは燃え滾っている。その姿自体が元春自身と、そしてかつての彼と同じような悩みを抱えて生きる若きソウル・ボーイへのメッセージなのだ。そんな気がするライヴだった。

■SET LIST
1.星の下 路の上
2.荒地の何処かで
3.君が気高い孤独なら
4.Us
5.夜空の果てまで
6.世界は誰の為に
7.ジュジュ
8.月と専制君主
9. レインガール
10.ぼくは大人になった
11.約束の橋
12.ヤングブラッズ
13.ダウンタウン・ボーイ
<アンコール1>
14.ヤァ!ソウルボー イ
15.ヤング・フォーエヴァ
<アンコール2>
16.クリスマス・タイム・イン・ブルー〜聖なる夜に口笛吹いて
17.アンジェリーナ