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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

見所は第三艦橋(のみ)。

■SPACE BATTLESHIP ヤマト
■監督:山崎貴  ■出演:木村拓哉黒木メイサ山崎努、緒形直人他
公開前から、ここまで酷評されてきた映画も最近では珍しいかもしれない。特に説明もいらないでしょう、実写版「ヤマト」。最初は「なんで『SPACE BATTLESHIP』なんだろう?『宇宙戦艦』でいいじゃない?」と思ったのだけど、見終わった今はこれで良かったんだと思う。つまり「スパイ大作戦」がトム・クルーズの映画になって「ミッション・インポッシブル」になったようなもので、「宇宙戦艦ヤマト」はキムタク主演になって「SPACE BATTLESHIP ヤマト」になったのだ。そう思うことにしたい。
 まず、ほぼ全編にわたり大活躍するCG・VFXの部分については、山崎監督の本領でもあり、さほどひどいものではない。(「えー?」と思う方もいるかもしれないが、この映画ではそれはマシな部類。もっとひどいところがあるから。)もちろん、本場ハリウッドの超大作に比べれば子供だましみたいなものなんだけど、それを言ったら始まらない。最初から予算も規模もケタが違うのだから、比べること自体に無理がある。あくまでも日本で、日本映画の中で見れば、これだけの映像を作れれば十分じゃないの?とは思う。この映画でまずいところは映像の部分ではない。演出と脚本だ。圧倒的にリアリティが欠如している。こういう近未来のSFだとか、あるいは漫画原作の実写化というのはハリウッドの十八番であるけれど、そういうときには徹底的に「人間」を描くことで作品に説得力とリアリティをもたらす場合が多い。しかし、「ヤマト」では徹頭徹尾薄っぺらい人間と人間模様らしきものしか描かれない。地球が放射能に汚染されてもそれほど切迫感が感じられないし、それを救おうと立ち上がる乗組員にも感情移入できないし、どうやらこの作品のテーマであるらしい「命を賭して守るべきもの」も、地球で苦しんでいる人達の姿が中途半端にしか描かれないため、何も伝わってこない。結果、クライマックスやラストでも全く感動できないのだ。
 基本的にはオリジナルのプロットを踏襲しているのだけど、設定が変わっているところはある(佐渡先生が高島礼子なのはあえてスルー)。アニメ版では放射能を逃れて地下に逃れた人類は、それでも普通に近代的な暮らしをしていたと思うのだけど、本作では本当にガラクタのような汚いシェルターに犇めき合って何とか生き延びている、という描写になっている。『マトリックス』における現実世界のような感じと言えばわかりやすいか。これは、リアリティを持たせる意味では非常にいい改変である。にもかかわらず、キムタクがケンカするくらいであっさりとシーンが変わってしまう。もっとちゃんと、ここで貧しい暮らししてる人たちの姿を見せるべきじゃない?もうこの人たちダメだよ、あと1年ギリギリ持つかどうかだよ、っていう切迫感を見せとかないと、「ヤマトが最後の希望だ!」って台詞に説得力が出ない。もったいない。ここで30分くらいかけたっていいと思う。それよりももっとひどいのがヤマトに乗ってからの会話シーン。戦闘じゃなくて、あの、乗組員たちが食事したりちょっとお酒飲んだりするようなたまり場みたいな。ああいうところでのシーンがもう最悪。ちょっとマジで、見ていていたたまれなくなってくる。見てるこちらが恥ずかしくなってくる。とにかくいちいち台詞が中二病すぎる。キムタク古代と、以前の部下たちとの会話とかもうホントに途中で「やめて!」って叫びたくなった。これ、何?バラエティ番組のパロディーコント?ってレベル。こういうシーンだとセットのチャチさもバレてきてしまうので、さらにひどい。監督としては、ヤマトの中でも兵士たちは普通に会話したり談笑してたりするはずでしょ?そういうところを描くのがリアリティよ!みたいに思ったのかもしれないけど、むしろ逆効果。おめーら「地球滅亡まであと○○日」とか言ってる時に中学校の休み時間してんじゃねーよ!何じゃれあってんだよ!って、イライラする。あとやっぱ、見ててダメだと思うのは、キムタク古代を始め乗組員全員バカだと思う。少なくとも、地球最後の希望を託すに相応しい軍人だと思えない。得体の知れない敵の戦闘機を何も考えずに船に乗せて暴れられるって、ヤバいでしょう。あまりにも不用意すぎる。これに限らず、なんか、作戦とかそういうのが悉く行き当たりばったりなので、「おいおい大丈夫かよ」の連続である。「さすが古代だ!」とか「さすが真田さんだ!」みたいなところが全くない。僕は見逃してたかもしれないけど、乗組員全員ほっぺにうずまき描いてたんじゃないかな。そのくらいバカ。オリジナルヤマトへのオマージュというのなら真田さんに「こんなこともあろうかと」の一言くらい言わせてほしかった。
 本作はプロットにしても設定にしても、良くも悪くもオリジナルを踏襲してて、それがアダになっている部分もある。例えば、ヤマトの乗組員って全員軍人なわけで、軍人であるからには階級というものが存在するはず。しかし地球防衛軍?にしてもなんにしても、誰が何の階級で誰より偉いのか、さっぱりわからない。これはオリジナルでもそうなんだけど、こうして実写版で見てしまうとそれもリアリティの欠如につながっていると言う印象。おままごとというか、軍隊ごっこに見えてきてしまう。黒木メイサ演じる森雪がオリジナルのような役立たずではなく、コスモタイガーのエースパイロットという設定は、まあアリでしょう。でも、キムタクと恋仲になる展開が唐突過ぎる気がする。なんか最初ケンカしてて、命救われて、気がついたらキスしてたみたいな。意味わかんない。もしかしてオレたち惹かれあってんじゃね?的な描写どこにあったんだ。何、最初のツンは「好きな人にいたずらする」レベルのアレだったわけか。どこまで中二なんだ。で、映画の最後まで見てたら、これこのときにもうヤッちゃってるわけでしょ。そこまでの過程なしかよ、って言うね。最近の中二は早いな、やることが。で、この辺を境にあれだけツンしてた森雪がデレに転換し、見事にオリジナルばりの役立たずになって行くという。このあたりのグダグダ感も、おお、もう・・・という感じ。
 ことほどさように、VFXは百歩譲っていいとして、その他のドラマ部分に深みや説得力やリアリティがとことん無い。まだ、それを感じさせられていたのは徳川機関長役の西田敏行と、沖田艦長役の山崎努ぐらい。しかも沖田艦長はヤマトが出発して割と序盤で倒れちゃうもんだから、ますますドラマが薄っぺらくなってしまった。VFXのことばっかりに頭が行って、細かいドラマや演出はどうでも良くなっちゃったのだろうか。本当に酷い。ガミラスの兵士たちがオリジナルのような、顔色の悪い人間ではないというのも、設定としてはわかるけど、それならそれでやはりどれだけ驚異的な敵か、ってことを執拗に見せつけてほしかった。見せ方を考えてほしかった。「よくわからん敵に襲撃されている」「なんて恐ろしいやつらなんだ!」ってみんな一人芝居してるだけだから見てて冷める。
 僕がこの映画で評価するポイントはふたつ。ひとつは、そうは言ってもオリジナルのヤマトに対するリスペクトがちょっとは感じられるところ。宮川泰氏の音楽にしても、やっぱりカッコいいわけです。あのテーマをバックにヤマトが発進するだけで燃えるわけですよ。そして「無限に広がる大宇宙・・・」のナレーション(ささきいさお氏!)に、あのスキャット。これだけでああヤマトだ、と理解させてくれる。この辺を変えなかったのはえらい。伊武雅刀、緒形賢一、上田みゆきといった、アニメ版でおなじみのCVを起用したのもいいと思う。もうひとつは、何と言っても第三艦橋第三艦橋と言えば、ヤマトの中で最も悲惨な役回りを義務付けられた箇所です。この第三艦橋が、実写版においてもなお第三艦橋としての矜持を保ち続けていてくれたことがうれしい。第三艦橋はヤマトの中で最も早く、最も惨たらしく破壊されなくてはならない。それでこそ第三艦橋第三艦橋が悲惨な(見事な)最期を遂げたとき、僕は思わず笑ってしまいました。「オレたちの第三艦橋が帰ってきた!」この酷い実写版において、第三艦橋にだけは惜しみない拍手を送りたいと思う。第三艦橋第三艦橋力、マジハンパねぇっす。
 というわけで、期待に違わない、クソ映画でした。クソ映画と知りつつも、熱湯風呂を目の前にした上島竜平のように「押すなよ!押すなよ!」な気分の方はどうぞご覧ください。話のネタとしては十分楽しめると思います。僕は映画の日に1000円で見ましたが、1800円出す勇気はないです。エンドクレジットで流れるスティーブン・タイラーの主題歌を聞いてそうか、これは日本版『アルマゲドン』のつもりだったのか、と納得。でも、『アルマゲドン』の方がよっぽどいい映画だよなあ、これに比べれば。