無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

素顔のままで。

けいちゃん

けいちゃん

 曽我部恵一、ソロのオリジナルとしては2007年の『blue』以来3年ぶりとなるアルバム。しかし、ライブ盤や曽我部恵一BANDサニーデイサービスと他のユニット・バンドでのリリースも多々あったので全くそんな気はしない。というか、思いついたらパッとライブやらカバーやらをリリースするので彼のディスコグラフィは異様に多作である。中には限定生産のものもあるので、よっぽどのファンでない限りその全てを追いかけるのは難しいだろう。僕は正直、諦めている。基本、ソロとソカバンとサニーデイのオリジナルを聞けばいい、と割り切っている。
 本作は全編ギター一本の弾き語りで、おそらくはオーバーダビングも無しの一発録りという、極めてシンプルなアルバムとなっている。ミスタッチやボーカルの失敗も含め、細かい部分での完璧さよりも演奏のテンションやムードに重きを置いたドキュメントと言っていい作品だ。デモテープのような簡易的なレコーディングでありながら、生々しい歌とギターはこれ以上の装飾を拒否するかのように凛として立っている。どんどん引き込まれ、最後には涙が出そうになってしまった。曲の内容は家族への愛情、日常の風景、若い人たちへのメッセージ、ちょっと政治的な物言い・・・など、様々である。それがすべて、今この時代を生きるアラフォー男の素直な独白になっているのがいい。同世代の僕は単純にグッと来てしまう。
 曲がよくて、プロが本気で弾き語りするとここまですごいものになるのか、とちょっと感動した。当たり前だけど、駅前で歌ってる素人とは比べものにならない。比べるのも失礼だ。このスタイルでアルバムが成立してしまうということは、今後もこうした作品が出る可能性があると言うことなのか。それはそれで、ファンにとってはうれしい悲鳴である。