無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

カオス・ダイバー。

アサイラム(初回限定盤)

アサイラム(初回限定盤)

 前作『パルス』から約2年ぶりのバックホーン8作目。わかりやすいメロディーを前面に出し、光と希望を力強く歌うこと(と、ガンダム効果)で新たなリスナーを獲得してきた近作とは異なり、序盤からかなり暗く重い音と言葉が並ぶ。どの曲も歌詞の意味は明確ではなく、混沌とした苛立ちとも怒りともつかない呪詛のような言葉が並ぶ。しかしその中に前向きな意思も覗く。今この混沌とした世の中で生きていくことの難しさをそのまま音にしたようなカオティックな曲が並ぶ。しかし、中盤の「羽衣」、「海岸線」でアルバムの様相は一変する。混迷の中のささやかな希望を掬い取るような、儚くも優しい音が心地よい。そして、「ペルソナ」以降、再度ヘヴィーなカオスの中に叩き込まれるという展開。その中でラストの「パレード」は疾走感のある陽性のメロディーの果てに「ここから新しい旅を始めよう」という言葉で終わる。これが救い。この曲がなければもっと暗い印象のアルバムになっていたと思うし、そうしなかったところに彼らが本作に込めた未来への想いが見える気がする。「アサイラム=避難所」というタイトルも、それと無縁ではないと思う。
 ただ、本作の暗さ、重さというのはデビュー時のバックホーンが持っていたそれとはちょっと違う気がする。昔の彼らの曲にあったヘヴィーさというのは自己嫌悪のネガティブさに因っていたと思うのだけど、本作の重さは自分たちの生きるこの世界をトレースしたもの、だと思う。(もちろんそれはきっちりと区別されるものではなく、あくまでも比重として、そういう傾向が強いということ。)本作のカオスな音像の中でもがいているのはバンドではなく、この世界に生きる我々一人ひとりなのだ。いたずらに自分の身を傷つけることなく、客観的な視点でもってそれを描き出せるようになったところがこの10年間のバックホーンの成長だとは思う。が、血みどろになりながらも叫ぶことでしか表現できなかったかつての彼らを懐かしむ自分も、やはりいるのだ。難しい。