吉井和哉の血。
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 2011/04/13
- メディア: CD
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イエモン以来封じ手としてきた歌謡ロック的なテイストを感じさせる「ACIDWOMAN」から始まり、アメリカでのロック巡礼の旅を経てのブルースやカントリーなどを吉井和哉流に消化した楽曲あり、ストレートなロックンロールありと、バラエティに富んだ曲がそろっている。そして本作のモードを最も顕著に表しているのが先行シングルの「LOVE & PEACE」だろう。自分自身の中のロックンロールの炎がまだ燻っていることを認識した上で、絶望的な世界の中で一筋の幸せを見つめるような、ポジティブで開かれた曲だ。「悲しい思い出の夢で目を覚ました/それはとても怖いことだけど/日曜日の朝が来て歯を磨いたら/ここはまだ平和な場所だ」これほど平易な言葉で世界を祝福する吉井和哉は初めてではないだろうか。彼がここに至った理由は多々あるだろうが、一人のミュージシャンとして、あるいは一人の人間として、自分自身の人生を肯定できたことが大きいのではないだろうか。終曲「FLOWER」では「自分の血を愛せないと/人は愛せないとわかった」とまで歌っている。かつては若くして死んだ父親の影を追うような曲も書いていたが、自分自身の人生を、血を認めることができたゆえの本作なのではないかという気がする。
本編は「LOVE & PEACE」で終わり、その後はアンコールというような、一本のライヴのような構成も非常にいい。リラックスしつつも、今の自分自身を一滴残らず搾り出したというくらいの密度の高さ。このズレのなさは自分自身が全ての演奏をしたということも要因だろう。決してテクニックではないスペシャルな何か、でこのアルバムは満ちている。とある雑誌のインタビューで吉井が語っていたのだが、吉井が自分で録音したデモを聞いた山下達郎が「これこのまま出せばいいのに」と言ったそうだ。ようやくその意味がわかったと言うことなのだろう。素晴らしい。