無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

人生は素晴らしい!

キャンプ・パンゲア

キャンプ・パンゲア

 ソウル・フラワー・ユニオン、約2年ぶりの新作。00年代以降のソウル・フラワーの完全オリジナル作品、つまり『スクリューボール・コメディ』、『ロロサエ・モナムール』、『カンテ・ディアスポラ』そして今作と、はっきり言ってどれも傑作揃いだと思う。順番つけろと言ってもそれは好き嫌いの範疇でしかないだろう。この10年間の彼らの活動は、紆余曲折ありつつも充実したものだったのだと思う。今作はギターの高木克が正式メンバーとなって以降初のオリジナル・アルバムとなり、サウンド的には彼のギターやブズーキなどのプレイが堪能できるようなミドルテンポのナンバーが多い。
 常に何がしかのポリティカルな活動に身を投じているバンドではあるが、今作に関しては例えば、前作でのパレスチナ辺野古、あるいはそれ以前の東ティモールと言ったような、アルバムの核になる大きなテーマがあるわけではない。今作の最初のレコーディングは「ルーシーの子どもたち」のセッションだったそうだが、つまりは「人間とは、人類とは何なのか。どこに向かっているのか。」という大きな命題がその根底にあるような気がする。そこから派生して、この地球上に生きる我々の人生における出会いや別れ、悲しみや喜びを無国籍なビートとメロディに乗せて歌い上げている。そこには国境や人種や言語の差などないではないか、全ての人生を祝福しよう、というのが最終的なテーマだと思う。タイトルにある「パンゲア」というのは世界が大陸移動して現在の形になる前、ひとつの陸地だったときの大陸の名前だそうだ。そのパンゲアで起こる人間模様というわけだ。まさに世界市民的な発想。ソウル・フラワー・ユニオンクロスオーヴァーな音楽が縦横無尽にその力を発揮できる舞台を自ら準備した、という感じのアルバムになっている。
 「ホップ・ステップ・肉離れ」「ダンスは機会均等」「死ぬまで生きろ!」「死んだあのコ」「アクア・ヴィテ」「ルーシーの子どもたち」と、シングル曲でもそうでなくとも、中川敬の歌謡的なメロディーが印象的な素晴らしい曲が揃っている。ブラック・ボトム・ブラス・バンドを迎えたラテン・サウンドを中心にごった煮的な音なはずなのに、アレンジはシンプルに聞こえるのも、彼らの音楽のひとつの成熟を感じさせる。
 ご存知の通り、彼らは大震災の後、東北への物資救援や現地でのボランティア活動、反原発の活動を続けている。次の作品にこうした背景が影響するのは間違いないだろう。日本を代表するレベル・ミュージックが3.11以降の世界をどう映し出すのか。日本という国をどう暴き出すのか。それは9.11後のアメリカをアーケイド・ファイアが断罪したようなものになり得るのではないか、と期待している。