無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

内省とエンターテインメントの先。

サカナクション SAKANAQUARIUM 2011 “ZEPP ALIVE”
■2011/06/22@Zepp Osaka
 サカナクション今回のツアーはその名の通り、日本全国のZeppを回るもの。各地のフェス出演や武道館公演などあったが、ツアーとしては昨年の『kikUUiki』ツアー以来約1年ぶりとなる。今回はアルバム発表に伴うツアーではないので、そのまま現在のサカナクションを見せよう、という趣旨で行われているようだ。
 仕事の都合で残念ながら僕が見ることができたのは3曲目の「アドベンチャー」以降。すでに会場は後ろまでギュウギュウで、暑いことこの上ない。駅から会場まで小走りで来たこともあってまったく汗が引かないままライブの熱狂に飲まれていった。アルバム『kikUUiki』の曲も自然にセットリストの中に溶け込み、彼らの持ち曲をシャッフルしたらこうなりました、というほどではないが、意図と無作為が絶妙に交差していくような選曲が心憎い。「ワード」や「あめふら」など、最近ではあまりライブで聞かなかった曲も演奏していた。中盤までは「セントレイ」以外はシングルや代表曲は外し、アルバム中の若干地味めな曲を中心に組まれていた。それでももちろん盛り上がるわけだが、明らかに後半のクライマックスに向けてテンションを上げて行こうという意識的なものだったと思う。
 シングルで発表される新曲『バッハの旋律を夜に聴いたせいです』は、曲名からして非常に挑戦的なものだが、随所にクラシカルなコーラスとハーモニーが用いられたアレンジも含め、これまでのサカナクションの曲から見てもかなりチャレンジングなものだと思う。これをあえてシングルにするところに、彼らの攻めの姿勢が見える気がする。「ホーリーダンス」が終わった後、ステージは暗転し、スモークの中なにやら機材が運び込まれてくる。気がつくとメンバー5人がステージ前方に一列に並び、揃いのサングラスで決め、まるでDEVOクラフトワークかのようにそれぞれがサンプラーリズムマシンを操作し、自由なグルーヴを形作っていく。この「montage」からそのまま「マレーシア32」に雪崩れ込み、レーザー光線が縦横無尽にフロアを駆け巡る。会場が熱狂のダンスフロアと化したその瞬間に、「ルーキー」の鮮烈なイントロが飛び込んでくる。あとはピークタイムが延々と続く圧倒的な時間。「アルクアラウンド」、「アイデンティティ」と右肩上がりのアンセム連発。全てはこの最後の瞬間のために、最初から周到に用意された時間だったわけだ。
 サカナクションの音楽は山口一郎という人間の内省から始まり、徐々にその世界を広げてきた。その過程でいくつものアンセムが生まれ、一人の人間の部屋の中でのつぶやきが世界に広がっていくダイナミズムこそがまさにロックとアンダーグラウンドの架け橋となってきた。昨年の武道館は確かに、彼らのキャリアにおけるひとつの到達点だったと思う。しかしそこに安住することなく、さらに先を見据えて進み始めているということは今回のライブでも良くわかった。そしてそれこそが、彼らがこのツアーで見せたかったものなのかもしれないと思う。アンコールのMCでは、震災で感じたことや、それに対してどういうアクションをとっているのかということ、そしてもちろん、自分たちがこれからどういうスタンスで音楽に向かっていくのかということについて、相変わらず熱く語っていた。そして全く売れないツアーグッズのトートバッグについても。スタッフ、「チームサカナクション」への感謝も忘れず、ラストは「ナイトフィッシングイズグッド」で締めくくった。来るべき次のアルバムへの期待が膨らむが、まずはフェスでの勇姿を確かめようと思った。

1.インナーワールド
2.セントレイ
3.アドベンチャー
4.表参道26時
5.Klee
6.潮
7.ワード
8.フクロウ
9.シーラカンスと僕
10.あめふら
11.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
12.ホーリーダンス
13.montage
14.マレーシア32
15.ルーキー
16.アルクアラウンド
17.アイデンティティ
<アンコール>
18.ネイティブダンサー
19.夜の東側
20.ナイトフィッシングイズグッド