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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

歩く大衆音楽。

MUSICMAN(初回生産限定 “MUSICMAN” Perfect Box)(DVD付)

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 桑田佳祐、サザン休止後初のソロアルバム。本作の制作が明らかになった後に病気が発覚し、治療期間を経ての発売となった。しかもその病気がガンということで、ファンは忌野清志郎のことを思い浮かべてしまったと思うけど、幸いにして初期ということで元気に復帰してくれた。本作にはそういうドラマがイヤでもついて回ってしまうのだけれども、そこにばかり気を取られてしまうとこのアルバムのすごさを見過ごしてしまいかねないと思う。重要なのは治療期間に入る前にすでにこのアルバムのレコーディングはいくつかのボーカル録りを除いてほぼ終わっていたということだ。紅白での派手な復活劇はあくまでもこのアルバムの宣伝材料でしかない。
 この全17曲、70分の力作は桑田佳祐という人の才能を全力投入して作られたものであり、言ってしまえば本来はサザンでやるべきはずの曲すらももったいぶらずに収められている。音楽人・桑田佳祐の現時点での集大成と言ってもいいアルバムだと思う。僕の中で桑田佳祐という人は例えば服部良一中村八大など、日本歌謡曲・大衆音楽史の中で重要な功績を果たした作曲家の系譜に属するべき人だと思っている。彼のルーツはブルースを軸としたアメリカンロックであり、同時に日本の歌謡曲・演歌でもある。彼のメロディーはどんな曲調であれ歌謡曲とマスの方を常に向いているし、力技でそれをお茶の間に浸透させた功績は非常に大きいと思う。僕の中での桑田佳祐サザンオールスターズというのは、初めてザ・ベストテンに出たときのインパクトがいまだに大きくて、ライブハウスで汗だくになった兄ちゃんが何を言ってるのかわからない早口で演奏している姿が結局のところ全てだといってもいい。それまでに聞いたことのない異形の音楽でありながら、気がつくと耳に残り口ずさんでしまう中毒性と浸透力。このポップネスこそが桑田佳祐なんだと思う。もうひとつはポップミュージックにおける日本語の乗せ方の革命的発明というものがあると思うけど、ここでは割愛。
 異常なまでにバラエティに富んだ楽曲。何の変哲もないラブソングから大衆(というか彼と同世代の人間に対する)応援歌的なもの、これまでの彼のソロアルバムにも顕著だった政治的なメッセージ性の高い曲など、歌詞の内容も同様だ。そして華やかな女性アナウンサーが中心の朝のニュース番組に提供した曲が実は朝っぱらからセックスをするという内容だという、素晴らしきドSプレイ。そういうとこも含めてまさに全部入りの桑田印。サザンを休止した今、自分がソロとして音楽を発表する以上はここまでの内容でなくてはならない、という気合を感じる。ここまでやられたらすみませんでした、と頭を下げるしかないんじゃないか。震災を経て、このアルバムの印象が変質した部分もなくはないが、本作の持つ過剰さこそが今の日本には必要なのではないかと思う部分もある。