無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

探偵どうでしょう。

探偵はBARにいる
■原作:東直己  ■監督:橋本一  ■出演:大泉洋松田龍平小雪西田敏行
 東直己の小説「ススキノ探偵シリーズ」を原作とした探偵もの。舞台は当然札幌ススキノで、地元民ならいちいち「ああ、あそこ!」と思うシーンが満載。そこに主演が北海道民の星である大泉洋と来れば、まさにこれは道民のための映画と言ってもいい。プロデューサー・監督・脚本含めスタッフは人気ドラマ「相棒」を手がけたメンバーが集結している。原作としてはシリーズ2作目の「バーにかかってきた電話」を基にしている。因みに「探偵はバーにいる」というのはシリーズ1作目のタイトルである。大泉洋演じる探偵(本編中では名は明かされていない)は電話を持っていないので、行きつけのバーに電話をして依頼を受ける。そこに「コンドウキョウコ」と名乗る女性から依頼が来る。怪しいと思いつつ引き受けると、いきなり殺し屋に拉致され、殺されかける羽目になる。調べていくと、1年前の殺人事件、放火事件など関係なかった事件が次々と点から線になっていく・・・という話。ストーリー自体は原作があることもあり大きな問題はなく、ラストの展開は途中で読めては来るが、それ自体は大きな問題ではない。
 この映画で大事なことは探偵のキャラクターをいかに魅力的に見せるか、そして助手の高田と探偵の絡みをいかに魅力的に見せるか、ということに尽きるだろう。それは、なかなか上手く出来ていると思う。探偵は基本シリアスでありながら、2枚目なだけではなく人間臭いユーモアや抜けたところもあり、激情的な性格でもある。スタントを使わず、全て俳優が行ったというアクションも含め、大泉洋はこのキャラクターを実に生き生きと演じている。原作では探偵はもっと年配の設定のようだが、制作側がどうしても大泉洋を使いたいために設定を変えたのだそうだ。高田役の松田龍平は大泉ほどのハマり具合ではないが、「いつでも眠い」「やる気がない」「でも強い」という捉えどころのない役柄をよく演じていたと思う。探偵と高田の間にある奇妙な友情と信頼関係は、キャラこそ違うがルパンと次元の関係を思い起こさせたりもする。探偵と、その周りにいるひとクセもふたクセもある人々の関係は、松田優作の『探偵物語』を髣髴とさせる。息子がその作品に出ているというのも、何かの縁なのかな、と勝手に想像したりもするのだ。あるいは永瀬正敏の『濱マイク』シリーズでもいい。あれは横浜だったし、こういうスタイリッシュな探偵ものと言うのは特定の地域密着の設定のものが多いような気がする。小雪西田敏行は破綻のない安定した演技で脇を固めている。あと、個人的にいいと思ったのが殺し屋役の高嶋政伸。青白いメイクで髪型も違うので、パッと見最初は誰だかわからないほどなのだが、狂気じみたサディストの役を存在感たっぷりに演じていた。演出は、どころどころTVドラマっぽい安っぽさが出てしまうきらいはある(これは照明のせいもあると思う)が、概ね良かったと思う。ラストに行くにつれて2時間ドラマっぽい湿っぽさが目立つのが若干気になるが、悲劇のストーリーなのである程度は致し方ないか。序盤に使ったカルメン・マキ(本人出演!)の「時計をとめて」をラストで再度使うのはいい演出だったと思う。
 映画が公開されて1週間ほどしたところで続編の制作が発表された。観客の入りが良かったので決めたという話だったが、恐らくは最初からそのつもりで制作されていたのだろうと思う。原作はシリーズものでストーリーには事欠かないし、魅力的な主人公とその周辺さえ描ければ、いかようにも話を転がせるタイプの映画だからだ。つまり、プログラム・ピクチャーとしての条件を最初から満たしているのである。主人公のキャラクターとその周辺の人間関係をきっちりと紹介する、シリーズものの第一話としての約束をきちんと本作はなぞっている。その中でまだ見せていない部分も多々あり、この先どういう展開になるのかという期待感も残っている。シリーズ化が頭になかったとは思えない作りなのだ。大泉洋の新たな当たり役として、この探偵物語はこれからも見る者を楽しませてくれそうな予感に満ちている。

バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)

バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)