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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

10年後の運命共同体。

STAR

STAR

 リップスライム、1年9ヶ月ぶりの新作。表裏2枚のベストアルバムを挟んでいるし、その中に新曲も収録されていたので久しぶりという感じはしない。FUMIYAの療養復帰後、ここ何作かはメンバー個別のサウンドプロデュースが目立ち、5人揃っての曲は減少傾向にあった。それはFUMIYAの物理的・精神的負担を軽減するためだが、と同時に個々のメイキングスキルも上がってきたためにいろいろやりたいと言う欲が各メンバーに出てきたためだとも思う。そういう、バラバラな作りをしつつもきちんとアルバムは統一感があるのがさすがリップと言うところだったのだけど、本作では再び5人での楽曲が大半を占めるようになっている。雰囲気としては、10年前のメジャーデビュー作『FIVE』を髣髴とさせる。『STAR』というタイトルも5つの点から星になるという意味をこめたと言う。ゲストミュージシャンは何人かいるが、いわゆるフィーチャリングはなし。明確に、5人でやると言う意識の元に作られたアルバムなのだ。
 生音サンプリングから打ち込みものというサウンドの感触のみならず、王道のヒップホップからジャズ、フィリー・ソウル、アコースティックまで曲調はバラエティに富んでいる。おもちゃ箱をひっくりかえしたようなこの楽しさは確かに『FIVE』に通じるが、決して単純な原点回帰と言うものではない。なぜなら、彼らは10歳年をとっているからだ。結婚し、子供ができたメンバーも増えた。この10年、リップは順風満帆なキャリアを築いてきたと言えるが、その中でも様々な葛藤や逡巡があった。おそらく、解散という文字が浮かんだことだってあったはずだ。それを乗り越えて来ての今なのだ。そんな彼らが「ダラダラENJOY PARTY」と歌うことには、一回りして思い希望の意味が込められる。
 何か吹っ切れたように、FUMIYAのトラックメイキングとソングライティングはまたしても素晴らしい冴えを見せている。「センス・オブ・ワンダー」の流麗な美しさと清々しいポップネスは他の追随を許さない。わかりやすいメロディーに乗せて薄っぺらい応援歌を歌うヒップホップグループが世に蔓延していたが、彼らはどこに言ったのだろう。終曲「BABY」はFUMIYAに第一子が生まれたことを題材にして書かれた曲だと言う。MC4人が茶化しながらも心からそれを祝福している様子が見て取れる。新たな絆を獲得したリップの再出発作、と言えるアルバムだと思う。