最後の傑作。
- アーティスト: R.E.M.
- 出版社/メーカー: Warner Bros / Wea
- 発売日: 2011/03/08
- メディア: CD
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前作は勢いのあるロックンロールナンバーが多く、生々しいエネルギーに満ちたアルバムだったが、ようやく彼らがトリオ編成でのダイナミズムを獲得したのと同時に、9.11の傷跡から復活したのかな、というタイミングでのものだったのだと思う。オバマ大統領が就任したのは前作が発表されて数ヵ月後のことだった。オバマ政権になり2年がたっても、アメリカの政治・経済はさほど情況が好転しているというわけではない。ブッシュのときよりはマシかもしれないが、オバマに大きな期待を抱いていた向きには失望も感じられる時期になっている。それでもR.E.M.はその失望をそのままアルバムに落とし込むのではなく、希望を持って今を生きるためのパートナーとして本作を制作したという気がしてならない。世の中とはそういうものだ、と言う冷静で客観的な視点が常にそこにあるような気がするのだ。前作ほどの過剰なエネルギーは感じないが、バラエティに富んだ素晴らしいメロディーを持つ楽曲は充実しているし、エディ・ヴェダーやパティ・スミスといった豪華なゲスト陣も話題だが、それを抜きにしても傑作と言っていいと思う。
R.E.M.は殊更に政治的なバンドと言うわけではなかったが、自分達の生きるこの世界について、いち生活者として冷徹な視線を持って語ることのできるバンドだった。その視点は聞き手に安易な共感をもたらすわけでもなく、また乱暴に突き放すわけでもない絶妙な距離感を保っていた。その距離感が僕はとても好きだった。ロックって何なのか、何を聞けばいいのかわからなくなったときに最初に立ち戻るバンド。自分にとってはそういうバンドだった。31年間、艱難辛苦を共にしたバンドを解散するという決意にどれほどの重さがあるのか、第三者からは計り知れない。最後に大きなツアーをやるとか、お祭り的に花火を打ち上げるわけでもなく、HPに声明を出すだけの幕引きが彼ららしいとも思う。最後まで生でライブを見ることはかなわなかったけれど、その音楽からたくさんのものを受け取った。
おつかれさまでした。ありがとう。