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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

日常という名の希望。

山下達郎  Performance 2011-2012
■2011/11/16@神戸国際会館こくさいホール
 山下達郎にとって6年ぶりのツアーとなった「Performance 2008-2009」以来、3年連続でのツアーということになる。ツアー復帰した際に達郎氏は「これからはアルバムリリースに関係なくできるだけライブをやりたい。」ということを言っていた。(彼にしては珍しく)有限実行、意気軒昂、無病息災落書無用。誠にもって素晴らしい。特に今回は6年ぶりの新作『Ray Of Hope』を発表してのツアーとなる。精力的な動きが見えるのはファンにとって非常にうれしい。
 3年前のツアー復帰時にドラムとセカンドキーボードがそれぞれ青山純小笠原拓海重実徹→柴田俊文に変更になって以来メンバー変更は無かったのだけど、今回はサックスが土岐英史から宮里陽太氏に変更となった。小笠原拓海と同年代で若手の有望なジャズ・プレイヤーらしい。土岐氏のベテランらしい渋みのあるプレイは大好きだったのだけど、ちょっと残念。ライブの日程がかぶっていたらしい。達郎氏のバックはみな腕利きのミュージシャンで引っ張りダコ状態なので長いツアーのスケジュールを押さえるのも大変なのだろう。
 今回のステージセットのイメージは港町の倉庫という感じ。中央に大きな橋があり、左に家屋、右側に倉庫。倉庫には大きなギターとトランペットのモチーフ。こうした大掛かりなセットを組むのも達郎氏のツアーの特徴である。エンターテインメントとしてのこだわりが細かいところに行き届いている。まだツアー序盤、始まって4日目ということで細かいセットリストは書かないが、最近のライブ定番曲から久々のレパートリーまで、なかなか面白いことになっている。勿論、新作の曲もやっているが、例えば「僕らの夏の夢」や「街物語」といったシングル曲はこれまでもライブでやっていたので、楽しみなのはアルバム中でも本当の新曲として発表された曲が初めてステージに乗ることだ。聞き所はタイトル、曲調からして最近の達郎氏の中では異色を放っていた「俺の空」。後半の佐橋佳幸氏と達郎氏のギターソロバトルはひとつのハイライトと言っていいだろう。しかしキャリアが長いとセットリストを考えるのも大変で(そりゃそうだろう)、何をやるかというよりも何を削るかという作業になるのだそうだ。普通のアーティストなら、新作が出ればその中からほとんどの曲をやって、という感じになるだろうがそういうわけにも行かない。達郎氏のライブは毎回約3時間になるが、それでも時間的な制約がある。今回も練習した中から直前に泣く泣く諦めた曲もあるらしい。また、新作の曲にはバンドでのアレンジがしっくり来ないのでセットに入っていない曲もあるようだ。もしかしたらツアー後半にはそういう曲が演奏されることになるかもしれない。それは後の楽しみに取っておきたい。
 途中で達郎氏のギターの音が突然出なくなるというハプニングもあった。しかし慌てることは微塵も無い。「序盤ですからね、こういうこともあります。」と落ち着いて処置を待つ。スタッフがちょっと手間取っていても軽妙なMCで場を繋ぐ。「こういう場面が見れると言うのも逆に貴重ですからね、皆さん運がいい。」「いざとなりゃ電気止まったってできるんですから。(会場拍手)」最高のミュージシャンシップ、そしてエンターテインメント。新メンバー宮里氏をフィーチャーしたパートもふんだんに盛り込み、各メンバーの安定したプレイはいつもながら最高。それに加え、このメンバーでのプレイもどんどん密度が高くなっている気がする。決め事だけでなく、その場での即興やアイコンタクトでの展開など、聞いていてスムーズに感じるところでも様々なやり取りがステージ上では行われているのだろうと思う。そう考えるとぞくぞくしてくる。セットリストは書かないと言ったけど、ひとつ。僕がシュガーベイブの中で最も好きな曲をやってくれたのがうれしかった。雨の曲です。
 アカペラコーナーでは、今回のセットになぞらえて。「アメリカのストリートをイメージしたセットですが、元々アカペラのドゥワップと言うのはストリートで生まれた音楽(つまりオン・ザ・ストリート・コーナーですね)。」「時代を経て、それがだんだんヒップホップになっていった。昔はヒップホップと言うのはストリートで大きなラジカセを持って、それでプレイしてたんですね。」「そういう時代にアカペラやってたとしたら、こんな感じじゃないでしょうか。」と言って、ラジカセのスイッチを押すと達郎氏のコーラスが流れてくる。それに合わせて歌う。いつもとは違うアナログ感。そしてワンコーラス終わったところで徐々にいつものサウンドスケールに戻っていくという・・・。やるなー、と唸らされる。
 これ以上ネタバレしたくないのだけど、これだけはどうしても書いておきたい。今回の新作のタイトルにもなり、アルバムを通してのテーマとなった「希望という名の光」のことだ。震災以降、この曲が持つ意味と言うのはそれまでと全く変わってしまったと達郎氏は言う。そして震災を経て、今の日本でミュージシャンはどんな歌を歌うべきなのか。歌を歌うというのはどういうことか。苦しんでいる人々に、歌は何をしてあげられるのか。そういう根本的な命題に向かい合わざるを得なくなった。達郎氏は言う。「音楽で世界を変えることは出来ない。しかし、苦しんでいる人、傷ついた人々に寄り添ってその不安や苦しみ、痛みを和らげる、癒すことは出来るかもしれない」と。間奏で彼は「蒼氓」の一節を織り込んで歌った。この瞬間、僕の涙腺は破壊されてしまった。「蒼氓」は市井の人々と共に生き、彼らのための歌を歌うという自らの信念を曲にした、彼のキャリアの中でも非常に重要な一曲である。「生き続けることの意味 それだけを待ち望んでいたい」という歌詞は日常が日常で無くなってしまった今の日本において、非常に重く響く。「蒼氓」もまた、震災を経て違う意味を与えられた曲なのだ。達郎氏は「希望という名の光」について、「去年のツアーではこの曲は私の友人たち(桑田佳祐岡村隆史)に捧げましたが、今回はここにお集まりの2000人の皆さんに向けて歌います」と言った。「ちっぽけな街に生まれ 人混みの中を生きる 数知れぬ人々の魂に届く様に」という、彼のポップ・ミュージシャンとしての姿勢がここに凝縮された演奏だった。間違いなく、今回のライブの最重要シーンである。
 「Let's Dance Baby」のクラッカーにまつわるエピソードも最高だったのだけど、ここでは割愛。今回のツアー通してのMCネタなら、次回の感想時に書くかも。その他、数々の「お約束」ももちろん健在。これを達郎氏は「ガラパゴス化」と呼んでいた(笑)。言い得て妙である。アンコール後半では「今日はトラブルもあったのでサービス」と「ラスト・ステップ」を弾き語りでやってくれた。今回のツアーは来年5月まで続く。その後は竹内まりやのアルバムの作業になるので、次のツアーは早くても2013年になるようだ。となると、それは彼の還暦記念ツアーということになる。3年連続でツアーをやり、歌の調子も30代後半くらいの一番いいときに戻ってきたという。来年はツアーをやらないので、話があればまた夏フェスに出てみたいと言っていた。ぜひ北海道に来てください。ライブハウスでのプレイもしたいと言っていた。今の達郎氏はライブをやるのが本当に楽しそうだ。いまだ衰えない充実のパフォーマンスをこうして見続けることができるのは我々ファンにとってもこの上ない幸せだと思う。毎度毎度話に出てもなかなか実現しない「JOY2」や「ON THE STREET CORNER4」についても、この調子でぜひ形にしてもらえると嬉しい。

■SET LIST(見たい方は文字反転してください)
1.BIG WAVE
2.SPARKLE
3.DONUT SONG
4.素敵な午後
5.僕らの夏の夢
6.プロポーズ
7.SOLID SLIDER
8.俺の空
9.雨は手のひらにいっぱい
10.DON’T ASK ME TO BE LONELY
11.おやすみロージー
12.HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHISTMAS
13.クリスマス・イヴ
14.希望という名の光
15.さよなら夏の日
16.今日はなんだか
17.LET'S DANCE BABY
18.高気圧ガール
19.アトムの子
<アンコール>
20.街物語
21.RIDE ON TIME
22.恋のブギウギトレイン
23.ラスト・ステップ
24.YOUR EYES