無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

衰えないベテランの仕事。

ERIC CLAPTON & STEVE WINWOOD JAPAN TOUR 2011
■2011/11/22@大阪城ホール
 エリック・クラプトンとスティーブ・ウィンウッドのコンビによるツアー。この2人の共演は2007年のクロスロード・フェスで実現して、それから断続的に続いているもの。当時から、「ブラインド・フェイス再結成?」的な話題になっていたが、こうして目の前でレジェンドを見られると言うのは感慨深い。クラプトンは気がつけば日本に来ているというくらい来日しているし、しかもその度に2〜3週間滞在して演奏しまくるので正直ありがたみは薄い(ごめんなさい)。というわけで今回僕のお目当てはスティーブ・ウィンウッドであった。僕は80年代、『バック・イン・ザ・ハイ・ライフ』(1986)や「ハイヤー・ラブ」の大ヒットで彼を知った世代でもあり、ブラインド・フェイストラフィックの曲をやるであろう今回のツアーは一生に一度の体験と言ってもいいと思っている。大阪城ホールに集まったお客さんの年齢層も確かに平均して高い。
 定刻を過ぎること10分あまり、ホールの電気が消えてステージにメンバーが登場する。クラプトンとスティーブが並んで登場するとひときわ大きな大歓声。最初は両名ともギターを持ち、ブラインド・フェイスの「ハード・トゥ・クライ・トゥデイ」でスタート。見る前は正直、いろいろ年齢的な衰えや何やらを気にしていたのだけど、始まるとそんなことは全く関係なかった。クラプトンのプレイは円熟味を増し、何気無く弾くフレーズがとてつもなくエモーショナルだったりする。自分のプレイをひけらかすこともなく、淡々と演奏しているようでいてきちんとサウンドの中心にドンと居座っている。このギターの記名性と存在感はやはりすごい。スティーブ・ウィンウッドのギターももちろん優れているが、ギター2人だとどうしてもクラプトンにスポットが当たる。彼のプレイヤビリティが発揮されるのはやはりピアノ、キーボードに座ったときだ。ボーカルは艶のある輝きを全く失っておらず、彼がメインになる曲ではクラプトンはきちんと脇役に回る。スーパースター2人のエゴがぶつかり合う火花散るステージ、という感じではなく、リスペクトし合う2人のベテランによる和気藹々とした雰囲気が心地よかった。序盤で「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」が始まった時に一気に会場が盛り上がった。2人が交互にボーカルを取り、どんどんクライマックスに向けて盛り上がっていく演奏。70年代以降、この2人が特に共演する機会と言うのはそれほどなかったと思うのだけど、この息の合いっぷりはどうなっているのだろう。
 サポートメンバーは最小編成と言ってもよく、クラプトンとスティーブ以外はドラム・ベース・キーボードに女性コーラス2名のみ。ベテランが目立つソロだけちゃちゃっと弾いて、それ以外は若手の腕利きが支えるという年寄りの余暇みたいなステージでは全くなかった。サウンドの根幹はまさしく主役の2人であり、そこに対しては手抜きや衰えは一切なかった。それだけでも見る価値のあるコンサートだったのではないだろうか(12,000円は正直、痛いけど)。
 「Draftin'」から始まるアコースティック・コーナーも良かった。アコースティックになるとクラプトンのプレイがより凄みを増したような気もする。特にソロのフレージングは流麗さよりも歪でもエモーションを前面に出したもので、ちょっと鳥肌が立った。「ワンダフル・トゥナイト」で涙したオールド・ファンは多かったはず。再びエレクトリック編成になっての「ギミ・サム・ラヴィン」はスティーブの独壇場。ソウルフルなボーカルと跳ねるピアノがどんどんグルーヴを牽引していく。とうに還暦を越えているが、スティーブのボーカルの輝きはこの日一番の驚きだった。生で聴けてよかった。本編最後はジミヘンのカバーで「ヴードゥー・チャイル」。大歓声のアンコールが鳴り止まない。
 アンコール1曲目はトラフィックの「ディア・ミスター・ファンタジー」。2人が交互にギターソロを奏でる後半はなかなかスリリングなやり取りだった。ここではスティーブのプレイもクラプトンに引けをとらない。元祖マルチ・プレイヤーぶりを遺憾なく発揮していた。アンコールラストは「コカイン」。大阪2日公演の初日だった前日は「コカイン」が本編の最後で、アンコールは「ミスター・ファンタジー」のみだったそうだ。それだと最後が盛り上がりにくいから、かどうかはわからないが、こちらの方が正解だったと思う。ラストの「コケイン!」は会場全体がひとつになってのシャウト。これで気持ちよく終われた。見る人によっては予定調和なゆるいコンサートと映るかもしれないが、僕は楽しかった。彼らのようなベテランに求めるのはロックの可能性を広げるようなサウンドやプレイではない。往年の名曲をいい演奏で聞かせてくれれば何も問題はない。彼らの演奏はその期待に十分応えてくれるものだった。これ以上何を望めばいいのだろう。

■SET LIST
1.Had To Cry Today
2.Low Down
3.After Midnight
4.Presence Of The Lord
5.Glad
6.Well Alright
7.Hoochie Coochie Man
8.While You See A Chance
9.Key To The Highway
10.Midland Maniac
11.Crossroads
12.Georgia On My Mind
13.Driftin'
14.That's No Way To Get Along
15.Wonderful Tonight
16.Can't Find My Way Home
17.Gimme Some Lovin'
18.Voodoo Chile
<アンコール>
19.Dear Mr. Fantasy
20.Cocaine