無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

15年間の矜持。

ウェイスティング・ライト

ウェイスティング・ライト

 フー・ファイターズ、約3年半ぶりのオリジナル7作目。前作との間にベスト盤を挟み、バンドとしてひと区切りをつけての新作となる。デイヴ・グロールはその間ジョッシュ・オム、ジョン・ポール・ジョーンズとゼム・クルックド・ヴァルチャーズを結成しアルバム制作とツアーを行うなど、精力的にソロ活動をしていたのはご存知の通り。
 バンド結成15年となる本作はデイヴの自宅ガレージでアナログ機材によりレコーディングされたのだそうだ。デジタル全盛の時代にあえて逆行するこのやり方は彼らのちょっとしたこだわりであると同時に、後から修正することのできないアナログ録音でバンドの生な感触をそのまま大事にしてレコーディングしたいということもあったのではないだろうか。実際、「ブリッジ・バーニング」などの疾走感溢れるロックナンバーは、一発録りかと思うほどの勢いに満ち溢れている。バンドの再スタートを飾るに相応しい快作だと思う。激しくもエモーショナルな「ジーズ・デイズ」で前半を締めくくり、シンプルで勢いのある「バック&フォース」から後半が始まる流れも、言うなればアナログレコードのA面B面の構成を思わせたりもする。
 もうひとつ、どうしても避けて通れないのは本作がニルヴァーナの『ネヴァーマインド』から20周年を迎えてリリースされると言うことだ。本作のプロデューサーは『ネヴァーマインド』と同じく、ガービッジのブッチ・ヴィグが担当している。もちろんこれは偶然ではない。ニルヴァーナ、そしてカート・コバーンの死と言うのはフー・ファイターズのスタートだけでなく、デイヴという人の人生そのものにあまりにも大きな影響を与えている。いくらフー・ファイターズで大きな成功を収めようともそこからは逃れることができない。本作はそこにきっちりと向き合って今のオレはこうだ、フー・ファイターズはこういうバンドなんだ、とひとつの旗を突き立てたようなアルバムだと思う。カートへの想いを記したような「アイ・シュッド・ハヴ・ノウン」から「俺は死にたくない」と激しくシャウトするラスト「ウォーク」への流れは胸に迫るものがある。その「ウォーク」が非常に軽快で明るい響きなのもいい。それが今のデイヴの心象なのだとすればこちらも救われた気持ちになる。
 そういうバックグラウンドに興味がなくても、これだけグッドメロディが並び、それを最高に力強い演奏と歌唱でグイグイ聞かせる王道のロックはそうそう聞けるものではない。「ディア・ローズマリー」のように壮大なメロディーでどんどん熱量を上げていく曲はライブでもハイライトになるだろう。スタジアム・ロックの見本のようなアルバムでもある。