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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

未来と過去を繋ぐ音。

ジェイムス・ブレイク

ジェイムス・ブレイク

 2011年、最も衝撃を受けたアルバム、と言ってもいいかもしれない。それも頭を殴られるようなそれではなく、いつまでも消えない鈍痛のような余韻を残すアルバム。イギリスの23歳、ジェイムス・ブレイクのデビュー作。
 ダブステップというジャンルについての知識はほとんどなかった自分のような人間にとって、ここにある音像は不可思議そのものだった。不規則なリズムはダブであり、ブレイクビーツであり、不整脈のように不穏に脳を揺らす。そして同時に心地よい彼岸の世界に聞き手を連れて行く。そこに乗っているのは詩情あふれるメロディーとソウルフルな歌声。歌われているのは適わない愛と、不確かな自身の存在に対する葛藤である。つまり、サウンドの革新性を取っ払ってしまえば、ここにあるのは伝統的な若き孤独なシンガーソングライターの「うた」そのものである。囁くように、呟くように、ジェイムス・ブレイクは自身の孤独を吐き出していく。それは、過去数多のソングライターがベッドルームから世界に向けて鳴らしたブルースと同質なものだ。
 伝統的なソングライターが最新のサウンドテクスチャーを用いたのか、というとそれは違うと思う。むしろ逆だろう。ダブステップなど、最先端のサウンドを鳴らすアーティストが、その音を自身の心象風景の絵の具として普通に使う時代なのだということだろう。ただ、ジェイムス・ブレイクほどそれを鮮やかに2011年に鳴らしたアーティストは今のところ他にはいないと思う。
 21世紀も10年を過ぎ、サウンドの新しさだけで未来を語れるほど我々は音楽に飢えていない。このアルバムの革新性とは、アーティストが何を、どういう音で表現するのかという方法論そのものを刷新したことだと思う。しかもそれが全く想像もつかなかったところから来たのではなく、伝統的なソングライティングに因るものだったことが重要なのだと思う。それはポスト○○と呼ばれるのかもしれないし、新しい名前がつけられるのかもしれない。何にしろ、ここからすべてが始まった、と後年語られるだけの重要な歌が収められている。そう信じられるに足る衝撃を受けたことは確かだ。それを未来と呼ぶのなら、それでいいのだと思う。