無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

見違えた後半戦。

BUMP OF CHICKEN  2012 TOUR「GOLD GLIDER TOUR」
■2012/05/12@北海道立総合体育センター(きたえーる)
 開演前のSEでは延々とラヴェル作曲「ボレロ」が流れていた。オーケストラがクレッシェンドしていき、クライマックスを迎えると自然と会場からも拍手と歓声が上がる。客電が落ち、スクリーンに数分間のCGムービーが映し出される。「GOLD GLIDER」と冠された今回のツアーテーマを題材にしたアニメーションで、金色のグライダーがスクリーン上で弾け飛んだ瞬間、一気に大歓声が沸きあがる。
 「三ツ星カルテット」、「宇宙飛行士への手紙」と『COSMONAUT』からの曲でスタート。「HAPPY」では客性全体に照明が当たり、この時間を共有できることへの多幸感が満ち溢れる。チャマのMCも集まった観客への感謝をストレートに伝えるものだったし、メンバー全員が楽しそうに演奏しているのが印象的だった。しかし。久々に聞いた「Stage of the ground」ではかなり盛り上がったものの、前半の流れは物足りなさも感じるものだった。端的に言って、冗長に感じた。『COSMONAUT』以降のタイアップシングルが多く演奏されたが、その多くはミドルテンポの曲で、どれもいい曲なのはわかっているが、ライブ映えするかと言われると微妙だし連続で来られると退屈に思える瞬間もある。バンプのタイアップというのは単にゲームや映画のために曲を書きますというだけではなく、その作品世界に大きな共感を得たうえで、作品の一部として完成するものである。なので、そのゲームや映画の中で曲がかかると単体で聞くよりも大きな感動が押し寄せてくるものになっている。それはわかる。ただ、ライブでやる以上、ライブの流れの中で曲同士がひとつの流れをもって有機的に繋がっていく必然が求められる。この前半のパートにはそうした感覚がやや希薄だった。「ハルジオン」も盛り上がったのだけど、やや唐突に感じられた。
 ここまでが前半で、彼らが楽器を置きステージを降り始める。アリーナ、ブロックの間を歩き、アリーナ後方のサブステージへと移動。開演時はこのサブステージには黒いシートがかけられていたのだけど、明らかに何かあるなというのはバレバレだった。ただ個人的にラッキーだったのはサブステージは僕のいたブロックのすぐ後ろだったので、ブロックの後方で見ていた僕はサブステージを最前列で見ることができた。ステージを横から見るような形で、増川側だった。アリーナのお客さんとハイタッチしながら、彼らがサブステージに上がる。セットはアコースティックなもので、貴重な時間になることは誰もが予想していた。「車輪の唄」は元々非常に人気の高い曲だが、アコースティックセットで演奏されることで曲中の情景がさらにセンチメンタルに彩られる感覚がする。続いて「Sailing Day」をアコースティックで演奏。疾走感のあるR&Rが違った形で演奏され、軽やかさが増す。演奏している彼らもリラックスして楽しそうだ。ただ一つ問題があって、アリーナクラスの大きな会場だとステージのPAから出てくる音は耳に届くまでに若干のタイムラグが生じる。このサブステージだと、特にドラムは目の前で鳴っている生音の方が直接聞こえてしまうため、PAの音が半拍ほど遅れて聞こえてくる。このいっこく堂状態のために若干乗り切れない部分があったのが残念。
 ただ、この後ステージに戻った彼らの演奏は前半のマイナスを取り戻して余りある密度だった。演奏そのものもタイトになった気がするし、何よりも曲の展開が意味のあるストーリーとして迫ってくるものになった。特にハイライトとなっているのは「supernova」。「伸べられた手を拒んだその時に/大きな地震が起こるかもしれない」という歌詞が、否応なく震災をイメージさせる。今となっては、聞く人によってかなり痛みを喚起させる一節となってしまっていると思うが、彼らは真正面からこの曲を歌い、ライブのハイライトに持ってくることを選んだ。当然である。この曲は、いつか必ず訪れる死といどう向き合うか、その死に向かって今をどう生きていくか、ということをテーマにした、祈りと決意の歌だからだ。必然として、今歌われるべき歌なのだ。「supernova」を挟む形で演奏された「イノセント」と「beautiful glider」も、テンションの高い演奏で静かにクライマックスを演出していた。実際の本編は「beautiful glider」で終わっていたのではないかと思う。「まだ行けるか」的なチャマの煽りで本編ラスト2曲は興奮の坩堝と化したが、これは一種のサービスだったのかな、と思うくらいその前の展開が濃いものだった。
 正直、『COSMONAUT』の曲をもっと聞きたいという思いは残った。先のライブハウスツアーでは多くやっていたと言う話だが、今回のアリーナツアーはじっくりとアルバムの曲を演奏するというよりは大きな会場でしかできない演出と選曲だったのだと思う。久々に見た彼らの演奏はよりタイトになっていて、アンサンブルの一体感も増していたように思う。アルバムでも印象的な藤原のアコースティックギターは複雑なリフを寸分違わず鳴らしており、ライブでも非常に効果的なアクセントになっていた。難しいのかもしれないが、今後もツアーやフェスで頻繁にライブを見られることを望む。

■SET LIST
1.三ツ星カルテット
2.宇宙飛行士への手紙
3.HAPPY
4.ゼロ
5.Stage of the ground
6.友達の唄
7.smile
8.グッドラック
9.ハルジオン
10.車輪の唄
11.Sailing Day
12.メーデー
13.イノセント
14.supernova
15.beautiful glider
16.カルマ
17.天体観測
<アンコール>
18.アルエ
19.ダイヤモンド
20.真っ赤な空を見ただろうか