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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

居心地の悪い男。

 レニー・クラヴィッツ約3年半ぶりの9作目。プロデュースは盟友クレイグ・ロスとレニー自身で、クレイグ・ロスのギターと一部ゲスト以外、ほとんど全ての楽器をレニーが演奏している。アナログLP2枚組を意識して4曲ずつ4サイドの構成になっているそうで、全16曲の大作となっている。2010年代にアナログLPを想定してアルバム制作するあたりはさすがレニー・クラヴィッツという感じだが、この話を聞いて思い浮かべたのは『1999』『サイン・オブ・ザ・タイムス』といったプリンスの2枚組アルバムだ。音楽性は異なるにしても、プリンスもレニーも、ブラック・アメリカンの血を引いていながらR&Bやソウルだけでなくロックンロールの要素も強く、バリバリのギターソロを弾いたりするなど、ジャンルレスな音楽を志向している。マルチ・プレイヤーであることも共通している。
 レニー・クラヴィッツと言う人はビッグネームでありながら、どこにいても居心地の悪さ、すわりの悪さを感じさせるミュージシャンだ。黒でもなく白でもなく、ロックでもなくソウルでもない。アメリカでは彼の曲をかけないというラジオ局もあるそうだ。日本だとなかなか理解しにくい感覚だが、彼の人生はこういうことがずっとついて回るものだったのではないだろうか。黒人の母親と白人の父親をもつレニーにとって、人種問題は子供の頃から家庭内にすでにあったものであり、彼のアイデンティティに直結している問題と推測する。表題曲はまさに直接的に人種問題を歌った曲で、「マーティン・ルーサー・キングには先見の明があった」というフレーズから始まる。端的に言えばオバマ以降のアメリカについての曲なのだが、黒人が大統領になったからOK、という曲ではもちろんない。人々もアメリカも深い闇を抱えていて、それを乗り越えなければならない、というへヴィーな曲だと思う。アルバムジャケットには自身の幼少の写真を用いていて、正面から自分のアイデンティティに向き合い、自分の持つ幅広い音楽性を存分に発揮した渾身の一作だと思う。つまりは彼にとっての『ボーン・イン・ザ・USA』なのだ。このアルバムは。
 ソングライティングに関しては文句のつけようがないくらい、スキのない曲が並んでいる。日本ではいまだに「自由への疾走」のイメージが強いのかもしれないが、レニー・クラヴィッツ最新の決定盤としてお勧めしたい。