無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

帰ってきた「みんなのうた」。

■Noel Gallagher's High Flying Birds JAPAN TOUR 2012
■2012/05/26@大阪市中央体育館
 ノエル・ギャラガーがソロで日本の地に降り立つ、というのは、オアシスファンであれば胸がざわつく出来事だろう。2009年フジロックから初めて、ノエルが日本のステージに立つのだ。しかも、充実のソロアルバムをひっさげて。ノエルのソロがどういうものになるのか、様々な予想があった。後期オアシスを継承した実験的なサウンドになるのか、ソングライターとしての基本に立ち帰るのか。結果は後者だった。どの曲もノエル自身による弾き語りからスタートしたと思われるアコースティックな味わいとグッドメロディーが際立っている。バンド形式であってもシンプルなアレンジで曲そのものの魅力と彼の声が存分に味わえるものだった。「レコード・マシーン」や「ストップ・ザ・クロックス」など、オアシス時代からその存在が確認されており、リハ音源すら出回ったこともある曲も収録されていて、「オアシス時代の名曲お蔵出し&現在のノエル」という内容とも言える。後期オアシスではノエルの曲はアルバムの半分程度になっていたが、このソロは当然100%ノエルである。オアシスをオアシスたらしめていたのはやはりこのメロディーであり、そしてリアムの声だったということがわかる。これはネガティブに捉えないでほしいのだけど、ビーディ・アイの1stを聞いても、ノエルのソロを聞いてもこの事実がはっきりと浮かび上がってくるのである。つまり、双方ともオアシスとは別物だということだ。少なくともノエルのソロに関しては、この20年間ロックシーンにおける最大のメロディーメイカーだった男が全ての枷を外し、初めて自分のためだけに作ったアルバムなのである。結果、それは多くの人の心に響く素晴らしいものになったのだ。
 ライブはオアシス時代の「グッド・トゥ・ビー・フリー」、「マッキー・フィンガーズ」で始まった。セットリストは東京とおそらく同じ。そしてオアシス曲も、ソロでライブをスタートして以降ほぼ一貫しているようだ。「マッキー・フィンガーズ」という、わりかし地味な曲をセレクトするあたりは彼なりのこだわりなのだろうか。一般的な曲の人気と、彼のソングライターとしての好みは必ずしも一致しないのかもしれない。ソロアルバムの曲はどれもほぼ音源そのままに近いアレンジだが、意外と(と言っては失礼かもしれないが)バンドとしてまとまりのある演奏だった。ノエル+バックバンドという体は確かに脱してはいないが、そつのない演奏をしているという感じ。そして、ノエルが気の合うやつらと言っている通り、ステージ上で冗談を言い合って笑ったりしている姿がオアシス時代とは違って印象的だった。
 淡々とセットリストは進んでいく。この来日の直前にノエルの愛するマンチェスター・シティFCがプレミア・リーグで優勝するというニュースがあった。この日の会場でもシティの水色のユニフォームを着ていたファンが見られたが、ノエルもそれに気づき、MCで言及していた。ところが湧き立つ会場の中になぜかマンUのユニフォームを着た不届き者がいたらしく、ノエルが「お前のことじゃねえよ!ファック!」と突っ込む一幕も。メンバー紹介の時にもギタリストの時に「こいついい男だろ?(観客湧く)結婚したい?ああいいぜ。でも今ステージ中なんで俺の許可がいるけどな」みたいなやり取りがあったり。ステージ上でこんなにリラックスしているノエルを見るのは初めてだ。アコースティックの「スーパーソニック」はやはり盛り上がったし、「ハーフ・ザ・ワールド・アウェイ」「ホワットエヴァー」などは涙モノだった。しかしオアシスナンバーだけで盛り上がっていたわけではなく、ソロ曲のクオリティも高いのでそれだけが浮き上がるライブにはなっていなかった。オアシスの曲をやるということに関して、ノエルには大きなこだわりはないのだろう。この日のステージからも、自分の書いた曲なのだからいいじゃないかというフラットな意識が見えてくる。もしあるのだとすれば、リアムの声じゃなければ成立しない曲はやらない、というのはあるかもしれない。(だから「スーパーソニック」がアコースティックだったのかな、とも思ったり)しかし。しかしである。アンコールラストの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」に至っては、アリーナを埋め尽くした客の想いと歌声が全てを凌駕するのだった。ノエルもそれをわかってこの曲を演奏し、サビの部分を丸々観客に渡していたのである。一字一句歌詞を覚えていて歌う客の声(自分含む)を聞いて、やはりオアシスというのはこの20年間、ロックにおける最大の「みんなのうた」だったのだという思いを新たにしたのだった。曲と、その曲を受け取った観客が主役であり、ステージにいるはずのノエルが一瞬消える。そんな瞬間が確かにこの曲にはあった。
 今年の夏はフジのグリーン・ステージにオアシスの曲が帰ってくる。その時にどんな光景が広がるのか、今から想像するだけで鳥肌が立ってくる。出演日は違えど、ノエルとリアムがあの2009年以来初めて苗場に来るのである。それだけで、熱い思いをこらえきれないファンは多いだろう。僕も楽しみだ。

■SET LIST
1.(It's Good) To Be Free
2.Mucky Fingers
3.Everybody’s On The Run
4.Dream On
5.If I Had A Gun
6.The Good Rebel
7.The Death Of You And Me
8.Freaky Teeth(New Song)
9.Supersonic (Acoustic)
10.(I Wanna Live In A Dream In My) Record Machine
11.AKA... What A Life!
12.Talk Tonight
13.Soldier Boys And Jesus Freaks
14.AKA... Broken Arrow
15.Half The World Away
16.(Stranded On) The Wrong Beach
<アンコール>
17.Let The Lord Shine A Light
18.Whatever
19.Little By Little
20.Don't Look Back In Anger

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