無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

変わるもの。変わらないもの。

サカナクション SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE
■2012/05/31@Zepp Sapporo
 ここ2〜3年のサカナクションのライブは、大きく分けて4つのパートで構成されている。起承転結、というとちょっと違うかもしれない。序盤で一気に盛り上げるつかみパート、中盤ヘビーにじっくり聞かせる内省パート、レーザーバリバリで躍らせるディスコパート、そしてラストに向けてたたみかけるクライマックスパート。という具合。武道館、幕張メッセ、そして様々なフェスのメインステージを沸かせてきたサカナクションのライブは、おおよそこの構成の中で発展・進化してきたと思う。もちろん全てがこの限りではないし、セットリストによって演出も変わることは確かだが。今回のZeppツアーも、大枠ではこの構成に沿ったものだったと思う。
 最近は序盤展開の定番ともなっている「Klee」から始まり、いきなりの「アルクアラウンド」と「セントレイ」の連発で一気にフロアを沸騰させる。「モノクロトウキョー」を挟み、「フクロウ」から始まる内省パート。こちらはおなじみのオイルアートを使ったビジュアルも効果的で、じっくりと山口一郎の歌の世界に引き込まれていく。そういう意味で、新曲のカップリングである「ネプトゥーヌス」はこのパートにしっくりくるものだった。「years」もそうだったが、サカナクションのカップリングには素の山口一郎の本音が透けるような名曲が多い。表シングル曲では毎回戦略的に狙いを定めた事をやっている分、これでバランスが取れているのかもしれない。「インナーワールド」はライヴの展開がここから新しくなるぞ、という合図である。アレンジが一新されパワーアップした「サンプル」、そして新曲「僕と花」の後、例の5人が横一列に並んでのDEVOタイム。「僕と花」を巧妙にサンプリングしつつ、サウンドがカオティックに広がっていく様はいわゆる「ロックバンド」のものではない。しかし、まぎれもなくサカナクションである。ここで用いられるレーザー演出は、次の「ネイティブダンサー」から始まる後半のクライマックスの呼び水である。ライジングサンのサンステージを完全に自分たちの空間として掌握し、いつもと変わらない演出でやり切ったサカナクションにとって、ライブハウスでの時間と空間の組立てはもはやお手のものなのかもしれない。「アイデンティティ」「ルーキー」と強力なアンセムを投下し、もう無敵何が来てもOK、という状態を作り上げたところで本編ラストの「エンドレス」が来るという流れ。この曲を今一番聞かせたいからこそのこの流れ。どうだろう。ここまでの本編ではこれと言ったMCもなく、一気にたたみかけるものだった。文句のつけようのないストーリー。そして演出、演奏も含め、ステージ上のバンドとスタッフがきちんと同じ方向を向いているからこそのスキのなさ。この精度の高さには驚嘆するばかりだ。
 アンコールではグッズ紹介やMCでようやく、くだけた空気が流れる。と同時に、本編がどれほど高い緊張感だったのかを改めて感じる。サカナクションにとって札幌は自分を育んだ場所であり、故郷である。札幌のファンも、この地でのライブでは皆「おかえり」という感覚を持っているはずだ。山口一郎はそれに対してはにかんで「ただいま」と返す。サカナクションはデビュー以来5年間、常に進化し続け、変化し続けてきた。それに対して寂しさを感じるファンもいたはずだと思う。山口はそれでも言う。「今でも、自分が音楽を作る時の基本は札幌でやっていた時の気持ちのままだ」と。表面上は変わるかもしれないが、根っこは変わらない。だから見捨てないでねと。「ナイトフィッシングイズグッド」と「白波トップウォーター」は、その根っこを象徴する曲として響いていた。ペニーレーンでの『ナイトフィッシング』発売後のツアー千秋楽、アンコールで持ち曲をやりつくしてしまった彼らはその日やった曲の中からメンバーの推し曲をファンの拍手で選び、演奏した。それが「ナイトフィッシングイズグッド」だった。確かに彼らは変わった。確かに彼らは遠くまで行った。それでも、変わらないものもある。札幌でのライブは彼らにとってもファンにとっても、それを確認するための時間、なのであれば個人的には嬉しい。
 終演後はいつものようにメンバーがステージ上から写真撮影を行ったが、客にもどんどん撮っていいと許可が出た。みんな一斉に携帯を出し撮影する。物販でCDを買った人には山口一郎が即席サイン会まで行っていた。なんつうか、やっぱ大好きだわ、このバンド。

■SET LIST
1.Klee
2.アルクアラウンド
3.セントレイ
4.モノクロトウキョー
5.フクロウ
6.壁
7.ネプトゥーヌス
8.バッハの旋律を夜に聴いたせいです
9.ホーリーダンス
10.インナーワールド
11.サンプル
12.僕と花
13.ネイティブダンサー
14.アイデンティティ
15.ルーキー
16.エンドレス
<アンコール1>
17.Ame(B)
18.ライトダンス
19.ナイトフィッシングイズグッド
<アンコール2>
20.白波トップウォーター