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無事なる男

敗北と死に至る道を淡々と書いています。

愛と批評。

"CHOICE II" BY NONA REEVES

 2011年発表の『CHOICE』に続く、ノーナ・リーヴスによる洋楽カバー集第2弾。プリンスやマイケル・ジャクソンビリー・ジョエルカルチャー・クラブ等々80年代洋楽の名曲を見事にカバーした前作に続き、本作においてもマイケル・ジャクソンやマドンナ、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース等、「あの時代」のヒット曲を網羅している。
 西寺郷太氏はじめノーナ・リーヴスのメンバーは1972〜74年生まれなので、自分と同世代。つまり、小学生から中学生の頃にMTVブームが到来し、80年代洋楽を通じて一気に音楽の世界に入り込んだ世代なのだと思う。西寺氏は日本随一のマイケル・ジャクソン研究家としても知られているが、彼の著作やコメントを見ると、他にもワム!カルチャー・クラブ、マドンナなど、当時の80年代洋楽が彼の原風景としてあるのだということが良くわかる。そうした曲を懐かしくカバーして楽しい!というだけならば単なる自己満足の世界なのだけど、そこはシーンきっての論客でもある西寺氏率いるノーナ・リーヴスのこと。そうはなっていない。つまり、誰のどの曲を選びどういうアレンジにするのか、そこに明確な意図がある。楽曲をカバーするということはつまり対象に対しての批評と同意であり、優れたカバーというのは優れた批評に他ならないのである。そういう意味において、前作及び本作はノーナ・リーヴスによる80年代洋楽の批評シリーズであり、もはやこれはライフ・ワークと言っていい完成度と意義を持っていると思う。ぜひ続けてほしい。実際には本作には70年代、90年代の曲も収録されているが、なぜそれを選んだかにもきちんと理由がある。西寺氏自身による長大なセルフ・ライナーノーツが非常に読みごたえがあるものになっているので、合わせて楽しめるだろう。
 ペット・ショップ・ボーイズでもセカンドからダスティ・スプリングフィールドをゲストに迎えた「とどかぬ思い」をカバーするあたりは心憎いとしか言いようがない(普通この曲は選ばないと思う)。エルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」が選ばれているのはやや意外だが、1988年に『永遠の愛の炎』で大復活を遂げたチープ・トリックが同作中でこの曲をカバーしスマッシュ・ヒットさせていることを思えば納得とも言える。しかも、そのイントロにはジョージ・マイケル「FAITH」を髣髴とさせるギター・リフが挿入されている。80年代ファンにはたまらない仕掛けである。マイケル・ジャクソンのオリジナルからライブバージョンまでを微細に分析したマニアとしての結晶である「ヒューマン・ネイチャー」もいいが、個人的なベストトラックは80年代アメリカ的な陽気さと暑苦しさを体現するヒューイ・ルイスのオリジナルをコンテンポラリーなクラブ/パーティー・チューンに焼き直した「パワー・オブ・ラブ」。80年代を通っているいないに関わらず、音楽ファン全員におすすめしたいアルバム。